家庭教育支援条例が制定されている自治体の一覧

今国会で自民党が提出予定だと報道されてきた「家庭教育支援法案」ですが、それとほぼ同じような内容の「家庭教育支援条例」が各地の自治体で着々と作られています。
どの自治体で通っているのかと、条例の内容が確認できるように、条例が制定された自治体をリストし、内容が掲載されているサイトにリンクを貼りました。

都道府県

  1. 熊本県 くまもと家庭教育支援条例 (2012年12月25日交付、2013年4月1日施行、2015年4月1日改正)
  2. 鹿児島県 鹿児島県家庭教育支援条例 (2013年10月11日交付、2014年4月1日施行)
  3. 静岡県 静岡県家庭教育支援条例 (2014年10月28日交付・施行)
  4. 岐阜県 岐阜県家庭教育支援条例 (2014年12月22日交付、2015年4月1日施行)
  5. 徳島県 徳島県家庭教育支援条例 (2016年3月18日交付・4月1日施行)
  6. 宮崎県 宮崎県家庭教育支援条例 (2016年3月23日交付、4月1日施行)
  7. 群馬県 ぐんまの家庭教育応援条例 (2016年3月29日交付、4月1日施行)
  8. 茨城県 茨城県家庭教育を支援するための条例 (2016年12月28日交付・施行)

市町村

  1. 石川県加賀市 加賀市家庭教育支援条例 (2015年6月22日交付・施行)
  2. 長野県千曲市 千曲市家庭教育支援条例 (2015年12月25日交付、2016年4月1日施行)
  3. 和歌山県和歌山市 和歌山市家庭教育支援条例 (2016年12月15日制定・施行)
  4. 鹿児島県南南九州市 南九州市家庭教育支援条例 (2016年12月22日制定・2017年4月1日施行)
  5. 愛知県豊橋市 豊橋市家庭教育支援条例(2017年3月29日公布)

上野千鶴子さんの「憲法改正論議」に対する楽観主義

上野千鶴子さんの2月11日付「中日・東京新聞」のインタビュー記事「平等に貧しくなろう」に端を発する議論が巻き起こっている。

決定版とも言えるような、稲葉奈々子さん・高谷幸さん・樋口直人さん共著の上野さんへの回答文も含め、重要な論点はすでに出ているので、私はここでは、一連の議論の中での主要な問題とは外れるところで、上野さんが記事後半で触れている「憲法改正論議」についてほんの軽く感想を。

上野さんはインタビュー記事で、「「国のかたち」を問う憲法改正論議についても、私はあまり心配していない。国会前のデモを通じて立憲主義の理解が広がりました。日本の市民社会はそれだけの厚みを持ってきています。」と書く。

非常に楽観的な解釈なのだが、立憲主義の理解というのはそんなに一般に広がったものなのだろうか。国会前のデモも確かに特に一時期はもりあがりメディアにも報道され、意義はあったと思うが、結局集団的自衛権は通ってしまった。

そして、そうした運動を左派やリベラル側が行なっているのと同様に、日本会議をはじめとした改憲派の団体も、徹底して草の根的な運動を行なっている現実がある。武道館で集会を開いて1万人集めたり、各地で特に女性をターゲットに「おしゃべりカフェ」などの勉強会を開いたり、改憲DVDを製作して各地で上映運動も展開している。

上野さんは「回答」の中では「憲法改正について「心配していない」と言うのは、今の段階で仮に憲法改正国民投票が実施されたとしたら、高い蓋然性で「否決」されるだろうと言う観測からです。」とも言う。

国民投票について予測が甘すぎないだろうか。そもそも上野さんが例示する大阪も、都構想はギリギリで否決されたものだ。そして、その後のBrexitにアメリカ大統領選と、どれも予想は外れている。上野さんご本人もこれは認めているが、世論調査に信頼をそこまで置けるのか疑問だ。

日本会議は2014年から「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を立ち上げ、1000万人署名活動を行っている。この署名はどこかに提出するための署名ではない。国民投票に向けた名簿作りが目的だ。すでに国民投票を見据えて2年以上前から、着々と運動を進めているということだ。
さらに日本会議を支える様々な宗教団体の裾野も大きい。

また、上野さんは「もっとも政権は、解釈改憲でこれだけのことができるのだから、もはや改憲の必要性を感じていないかもしれませんが」とも書く。

だが、安倍在任中の改憲は安倍支持層の右派の悲願だ。2014年から運動本格化をさせ「美しい日本の憲法を作る国民の会」を作り署名運動を始めたのも、安倍在任中の明文改憲という明確な目標があるからだろう。

そして、彼らがこだわる改憲項目は9条だけではない。緊急事態条項や24条、さらには環境権などまで、その時に改憲しやすいところを狙ってくることだろう。フェミニストとしては興味関心のど真ん中である条文の24条は、現在、右派や自民党にとっても優先される改憲項目の一つだが、1954年、当時の自由党憲法調査会が論点として24条を挙げるなど、ずっとターゲットとなってきた。そして、2006年の教育基本法「改正」で「家庭教育」項目を入れたことをはじめとして、安倍氏はずっと「家族」をめぐる問題にこだわりを見せてきた政治家でもある。

2000年代初めの男女共同参画への「バックラッシュ」の時もそうだったが、フェミニストは自分たちが戦っている相手である右派勢力やその運動展開について、もっとしっかり把握すべきなのではないか。実態を見ないで想像に基づいて過度に恐怖を煽るのももちろん問題だが、同様に実態に即さない楽観主義も非常に危ういのではないか。
とくに上野さんは憲法についての著作もあり、講演などで憲法について話すこともあると思われる。影響力がある人だけに、改憲についての根拠不明な楽観主義の広がりにつながるとしたら怖いと思う。

自民党が次期国会提出予定の「家庭教育支援法案」に関連して

10月22日付の『朝日新聞』に、「家庭教育支援、国が方針 住民の協力は「責務」 自民法案」という記事が掲載された。これについていくつかツイートをしたものを簡単にまとめた形で、こちらにも掲載しておく。

自民党が来年の通常国会に提出予定という「家庭教育支援法案」(仮称)に関連することを、『日本会議神社本庁』(『週刊金曜日』成澤宗男編著)掲載の「日本会議のターゲットの一つは憲法24条の改悪」という拙文に書いた。関連部分だけ抜粋して以下、引用する。

2006年12月に改正教育基本法が成立した。2016年5月28日に開催された全国教育問題協議会の大会を私は見に行ったのだが、そこで小林正元参議員議員は、教育基本法改正に取り組んだ際、1愛国心、2家庭教育、3宗教的情操の寛容 の3点に特に焦点を当てたと述べた。すなわち、日本会議などの保守運動にとっては、愛国心のみならず、「家庭教育」が非常に重要な柱の一つだったのだ。さらに小林は、家庭教育についてだけは納得できる結果になったとも語った。

実際のところ、改正後の教育基本法第10条に「家庭教育」が組み込まれたことの影響は大きい。これをベースとして、民間では高橋史朗らにより、「親学」運動が広げられていった。自治体では家庭教育関係の取り組みが行われるようになり、パンフレットが制作され、啓発事業も展開されるようになった。さらに2012年12月に制定された熊本県の家庭教育支援条例を皮切りに都道府県、市町村などでの家庭教育支援条例の制定が相次いでいる。条例のみならず、たとえば八木秀次や、日本政策研究センターは「家族基本法」の制定を目指すべきという主張を打ち出している。(179)

家庭教育支援条例の制定が「相次いでいる」と上記で書いたのは、着々とできているなあと思っていたからで、数としては決して爆発的に多いとかではなく、現在条例が制定されている県は、熊本県、鹿児島県、岐阜県静岡県徳島県群馬県。市では石川県加賀市、長野県千曲市だ。私が見逃しているのもあるかもしれない。

だから、もう少し自治体での条例を広げていってから法案なのかと思っていたが、予想より早かった。そして、これで国が法案だして通ったりすると、自治体の条例もそれに従って一気にできてくると思う。そして、条例に従ってプランもできて、すでに行われている家庭教育推進が自治体レベルでもより熱心に取り組まれるようになるという流れか。そして、国も率先して様々な施策を行ってくるのだろう。

そして、各地の条例作りの上での「モデル条例」化しているのが、全国に先駆けて作られた熊本県「くまもと家庭教育支援条例」だ。

映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVD完成

ついに、映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVDが完成しました!
DVDは、送料込みで680円で販売します。複数枚ご注文の場合、680円×○枚となります。

お申し込みご希望の方は、「行動する女たちの会」映像を記録する委員会 kodosuruonna@gmail.comあてにメールでお申し込みください。追って、お支払い方法などをメールでご連絡させていただきます。

映像記録は、昨年7月の『行動する女たちの会資料集成』出版記念の集会での元会員の方々のご発言に加え、個別に何人かの元会員の方々にさせていただいたインタビューも収録されています。
また、当時の運動の貴重な写真からは、どんな感じで運動していたかがわかるのではないかと思います。

このプロジェクトのためのインタビュー、3年くらいやってた感じかな。。
私自身も初めてお話を伺う方々もいらっしゃって、DVDに入りきらなかった中での貴重なお話もたくさんありました。

台東区で『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』上映会&トーク

参加費無料・申込不要
=====================
世の中を変えるために行動を起こしてきた
女性たちの声をきいて考えよう!
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日時:9月25日(日)10:30(10時開場)−12:00
場所 : 台東区生涯学習センター4階 台東区立男女平等推進プラザ
   403・404企画室 (台東区西浅草3-25-16)
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/ 

1975年の国際婦人年から、1996年まで、テレビCM「わたし作る人・ぼく
食べる人」への抗議や教科書の女性像・男性像への異議申し立てなど、さまざま
な活動を行ってきた会の映像記録 『行動する女が未来を拓く ―行動する女た
ちの会20年の記録』をみて、ゲストと共に話しましょう。

◆上映作品◆
『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』
(制作:「行動する女たちの会」映像を記録する委員会/2016年/58分)

トークゲスト◆
山田満枝さん(「行動する女たちの会」映像を記録する委員会)

(参考URL)『行動する女たちの会 資料集成』全8巻(六花出版)の紹介ページ
http://rikka-press.jp/koudousuruonnna/

企画:はばたき21 ドリームプロジェクト habataki21dp@gmail.com
はばたき21ドリームプロジェクトは、台東区立男女平等推進プラザはばたき21の
10周年をきっかけに立ちあがったグループです。

この企画は、2016男女平等推進フォーラム↓のワークショップとして実施します。
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/danjobyodoforum/fo-ramu2016.html

日本の右派の英語発信の歴史についてのメモ

先週、SYNODOSに「猪口邦子議員から本がいきなり送られてきた――「歴史戦」と自民党の「対外発信」」という記事を書いた。だが原稿が長くなってしまったので、本筋から少しずれるところをカットすることになった。自分用の記録という意味も兼ねて、カットした日本の右派による英語発信の歴史部分に若干加筆したものを載せておく。

2000年代初めは南京大虐殺

おそらく1997年にアイリス・チャンの書籍がアメリカで発売され、話題になったなどの展開が影響してか、2000年代初めは、日本の右派は南京大虐殺に関する英語の書籍での発信を行っている。2000年には、竹本忠雄・大原康男『日英バイリンガル 再審「南京大虐殺」』(明誠社2000)という日英対訳本が刊行された。この書籍は日本会議国際広報委員会により編集されたものだ。私の手元にあるのは、2007年発行の第6刷で、帯には「小林よしのりさん『戦争論2』で大推薦!今後海外に留学居住する人にはこの本は必携である」「アメリカを舞台とする反日宣伝に大打撃!」などと書かれている。 


同じ2000年には、Tanaka Masaaki, What Really Happened in Nanking: The Refutation of a Common Myth(世界出版2000)という南京否定論の書籍が、現在「史実を世界に発信する会」の事務局長を務める茂木弘道氏が経営する世界出版から出版された。版元サイトによれば、この本は、『南京で何が本当に起こったのか:よくある神話への反論』、「「南京事件の総括」(田中正明著)の中心部分である「15の論拠」に、ニセ写真説明と朝日新聞の事件当時の特集組み写真とを加えて、南京事件の真相をコンパクトに示した英文書」だという。そして翌2001年には、この本を北米のアジア研究の研究者らに一方的に送付してきたことがアジア研究のメーリングリストH-Asia上で話題になった。その時のMLでの議論によれば、相当数の中国研究、日本研究などの研究者に送られたようだ。
 のち、2008年には、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(教科書議連)が日英対訳版の書籍『南京の実相―国際連盟は「南京2万人虐殺」すら認めなかった』(日新報道2008)を発行した。

2000年代後半は「慰安婦」問題

2007年1月、米下院で、日本政府に「慰安婦」への謝罪を要求する下院121号決議案が出されたことで、日本の右派の動きが目立つようになった。6月14日、保守系論壇人5人からなる「歴史事実委員会」は右派系知識人や国会議員らの賛同を集め、ワシントンポスト紙に英文のTHE FACTS広告を出した。これがアメリカ国内で大きな反発を招いた。米国下院「慰安婦」謝罪決議(H.Res.121)は同年7月30日、全会一致で可決。

翌2008年から「史実を世界に発信する会」(加瀬英明代表、茂木弘道事務局長)は、「反日プロパガンダ」に対抗するとして、メールマガジンやウェブサイトなどの手段で、英文での発信を行い始めた。同会による第1号のメルマガのテーマは、西岡力氏の『よくわかる慰安婦問題』の部分的な英訳だったことからも、2007年のアメリカ下院での「慰安婦」決議のために、英文メルマガ発信を開始したのだろうと考えられる。同会は日本研究関係者のリストを手に入れたと思われ、私にも、頼んでいないにもかかわらず、同会のメルマガが届くようになった。この件に関しても、Association for Asian Studies (AASアジア研究学会)が、この歴史修正主義団体の「不快なメール」とAASは無関係であると、日本研究のメーリングリスト、H-Japan上で声明を出している。

この「史実を世界に発信する会」のメールは、今でも比較的に頻繁に届いており、2015年5月5日に北米の日本研究学者らが中心となって発表した「日本の歴史家を支持する声明」に署名をしたことで新たに届き始めたという人もいるようだ。また、「史実を世界に発信する会」からは、私にも書籍やパンフが何度か送られてきたことがあるし、他にもだいぶ前から時折送られてくるという人もいるようだ。

「歴史戦」と英文情報送付活発化

2012年11月、、The Factsの失敗に懲りず、再度、日本の右派系知識人らが中心の「歴史事実委員会」が、ニュージャージー州の地方紙に、"Yes, we remember the facts."と題された意見広告を掲載した。安倍晋三氏ら国会議員38人も賛同。ニュージャージー州パリセイズパークで2010年に「慰安婦」碑が建てられるなどがあり、同州が注目されたことが背景にあるだろう。だが、ここでも翌2013年、「慰安婦」決議が州の上下両院で可決された。

2014年8月、朝日の検証報道が話題となり、「慰安婦」問題への注目が高まった。その年、「慰安婦」問題に関する英文、もしくは日英両語による小冊子が右派系団体により幾つか発行され、無料配布された。

2015年に入り、幾つかの英文書籍が出版された。今回、猪口議員から送られてきた呉善花著、大谷一郎訳の書籍Getting Over It! Why Korea Needs to Stop Bashing Japan(たちばな出版2015)は、その中でも最も広く配布されているようだ。私にも著者から今年の8月に送られてきたばかりで、私の友人たちで、猪口氏からは書籍を送られていない人たちでも、呉善花氏の本だけは送られているという人たちもいた。ちなみに、ラジオ番組「荻上チキSession 22」でも言及されたが、呉善花氏は、「フジ住宅」の今井光郎会長が理事を務める「一般社団法人今井光郎文化道徳歴史教育研究会」の、2015年度の助成を受けている。助成の内容は、「『Getting Over it! Why Korea Needs to Stop Bashing Japan』3千部、アメリカの政治家、研究家、図書館などに送付」というものだ。 


呉善花氏から私へ送られた書籍と共に同封されていたカード

グレンデール裁判の原告、目良浩一氏も、Comfort Women not “Sex Slaves”: Rectifying the Myriad of Perspectives (Xlibris US, 2015) 英語で書籍を出版した。Xlibrisという出版社は自費出版専門の版元で、書店などへの広い流通は期待できないだろう。だが、GAHTは、目良氏の本と、呉善花氏の書籍、産経の歴史戦の3冊を、サンフランシスコ市議や日本研究学者らに送付したとサイト上で報告しており、目良氏の本も幅広く配布されていると思われる。

そして、今回の猪口議員からの書籍は、アメリカのみならず、オーストラリアにも送られていたこともわかった。オーストラリアでも「慰安婦」像建設案が話題になったこともあり、「歴史戦」の現場の一つとみなされたための送付ではないだろうか。

猪口議員からの書籍が私に届いた後、今度は右派活動家の我那覇真子氏から、英文記事とレターが入った封筒が届いたという声が、北米や日本在住の研究者から届き始めた。(私のところには現段階では届いていない。)沖縄・辺野古関係の研究に関わる学者らに送られているのでは、とも言われている。猪口議員からの封筒とほぼ同じ時期だったため「また似たようなものが来た」という印象が強いことだろう。同封のレターは、日米関係、特に沖縄の米軍駐留は中国の脅威のために重要であるとし、翁長知事を批判する内容だった。猪口議員も、書状の中で、自らの肩書きを間違えて記載していたが、我那覇氏も、”Head of Delegation to the U.S. Council Meeting On Human Rights in Geneva”と記載。おそらく”U.S.”は”U.N.”とすべきところを間違えたのだと思われるが、レターの意味をも変えうるミスではある。全く面識のない人に主張をアピールしたくて送る手紙で、目立つところで間違える、というパターンも続いている。

 育鵬社の新編『新しいみんなの公民』 さながら“安倍晋三ファンブック” 憲法改正に向けての動きを作り出すツール

 育鵬社版の公民教科書は、 国家に貢献できる人材づくりを目指したものだ。そして、前回検定版にも増して、改憲にむけての動きを作り出そうという狙いが 明白な作りである。

 冒頭で「グローバル化」を扱うが、そこでは 国の歴史、伝統、文化を踏まえた存在こそが「グローバル人材」であると定義づけられる。その主張を強化するために、 曽野綾子氏の「よき国際人であるためには、よき日本人であれ」という文章が掲載されている。 他の章でも、 愛国心や国家への意識の重要性が 強調されている。

 日本国憲法の解説として「国民主権天皇」と題された節があるが、 その中に「国民としての自覚」という項目を新設。「国民」の(権利ではなく)義務と責任を強調している。同項のコラムには、東日本大震災の被災地で黙祷する天皇皇后の写真とともに、「日本の歴史には、天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して、国家的な危機を乗り越えた時期が何度もありました 」と書かれている。 別の東日本大震災についての頁も、「自分を犠牲にして住民を守った公務員」や「感動与えた日本人の秩序」など、国家への自己犠牲を賞賛し、 ナショナリズムを煽る内容だ。

 改憲に関連する記述が多いことも特徴だ。「憲法改正のしくみ」については今回「憲法改正要件の比較」という表も追加された。基本的人権に関しても、社会秩序を優先し、個人の権利や自由の行使が制限されることもあるとし、集会・結社の自由の制限などの例を挙げる。 また、新たに「政府の仕事」として追加された「国民を守る防災・減災」という項目では、災害時の危機管理システム構築の重要性が強調される。 現在改憲派にとっての最優先項目だといわれる「緊急事態条項」の導入に直結した内容といえるだろう。

 また、環境権などの新しい人権を憲法に明記すべきだという考え方があるとも書く。さらに 国防の義務が日本国憲法にないことが珍しいということも、繰り返し主張され、 「平和主義と防衛」という節では、有事への備えが現在の法律で不十分であると述べ、中国や北朝鮮の軍事的脅威が強調される。 改憲派が主張していることがもれなく盛り込まれている。

  育鵬社の宣伝誌『虹』によれば、今回の教科書の最大の特色の一つが「人生モノサシ」という図だ。「学校教育の時代」「社会人の時代(結婚を含む)」「親の時代(出産・子育て・家庭教育を含む)」 「高齢期」という人生のモノサシが示されている。結婚や出産、子育てが前提となった画一的なモデルだけが提示され、多様な生き方という視座はない。

  執筆陣は全員男性だ。男女共同参画社会の説明は、基本法の定義とは乖離。「 男女のちがいを認めた上で、たがいに尊重し、助け合う社会をいいます」と説明される。「男女のちがいというものを否定的にとらえることなく、男らしさ、女らしさを大切にしながら…」という記述もあり、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つはたらきをしていると考えられています」と説明されるなど、 家族の一体感や維持の重要性を強調。改憲派の提案する「家族保護条項」に直結した内容だ。

  領土問題については、約4頁にもわたり日本の立場のみが詳細に示される。 辺野古への米軍基地移転は地元への「負担軽減」という解釈も、 政権の立場に偏った記述だ。

 また、人権や差別問題に弱いという本教科書の特徴は、 「人種差別」を海外の問題だとして位置づけ、 「社会権」は外国人に保障されるものではないなどと定義づけにも。 ニートは「学校に通わず就職もしない」と自己責任かのように描かれ、社会構造の問題という視点も非常に弱い。

  他にも、 たとえば村上和雄氏の「 遺伝子の世界とサムシング・グレート」と題するコラムが残ったが、これは 反進化論 「インテリジェント・デザイン」論と近い考え方で、非科学的という指摘もある。ちなみに、 史実にはないとして保守陣営内からの批判もある「江戸しぐさ」については、検定合格後に削除されたという。

  「日本がもっと好きになる教科書」を謳うが、あくまでも安倍政権が理想とする「日本」を好きになれ、というものでしかない。そして、これは「安倍晋三をもっと好きになる 」ための教科書だ。 掲載された安倍氏の写真は15枚に及ぶ。 「安倍晋三ファンブック」と化している本教科書だが、政権の目指す憲法改正のためにはこの上ないツールと見なされるだろう。この動きは止めなくてはならない。

山口智美

(本稿は『週刊金曜日』2015年6月15日号に掲載された山口による執筆記事を、編集部の許可をとり再掲したものです。現在、教科書採択戦の重要な局面が続いていることからアップしました。)