映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVD完成

ついに、映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVDが完成しました!
DVDは、送料込みで680円で販売します。複数枚ご注文の場合、680円×○枚となります。

お申し込みご希望の方は、「行動する女たちの会」映像を記録する委員会 kodosuruonna@gmail.comあてにメールでお申し込みください。追って、お支払い方法などをメールでご連絡させていただきます。

映像記録は、昨年7月の『行動する女たちの会資料集成』出版記念の集会での元会員の方々のご発言に加え、個別に何人かの元会員の方々にさせていただいたインタビューも収録されています。
また、当時の運動の貴重な写真からは、どんな感じで運動していたかがわかるのではないかと思います。

このプロジェクトのためのインタビュー、3年くらいやってた感じかな。。
私自身も初めてお話を伺う方々もいらっしゃって、DVDに入りきらなかった中での貴重なお話もたくさんありました。

台東区で『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』上映会&トーク

参加費無料・申込不要
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世の中を変えるために行動を起こしてきた
女性たちの声をきいて考えよう!
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日時:9月25日(日)10:30(10時開場)−12:00
場所 : 台東区生涯学習センター4階 台東区立男女平等推進プラザ
   403・404企画室 (台東区西浅草3-25-16)
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/ 

1975年の国際婦人年から、1996年まで、テレビCM「わたし作る人・ぼく
食べる人」への抗議や教科書の女性像・男性像への異議申し立てなど、さまざま
な活動を行ってきた会の映像記録 『行動する女が未来を拓く ―行動する女た
ちの会20年の記録』をみて、ゲストと共に話しましょう。

◆上映作品◆
『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』
(制作:「行動する女たちの会」映像を記録する委員会/2016年/58分)

トークゲスト◆
山田満枝さん(「行動する女たちの会」映像を記録する委員会)

(参考URL)『行動する女たちの会 資料集成』全8巻(六花出版)の紹介ページ
http://rikka-press.jp/koudousuruonnna/

企画:はばたき21 ドリームプロジェクト habataki21dp@gmail.com
はばたき21ドリームプロジェクトは、台東区立男女平等推進プラザはばたき21の
10周年をきっかけに立ちあがったグループです。

この企画は、2016男女平等推進フォーラム↓のワークショップとして実施します。
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/danjobyodoforum/fo-ramu2016.html

日本の右派の英語発信の歴史についてのメモ

先週、SYNODOSに「猪口邦子議員から本がいきなり送られてきた――「歴史戦」と自民党の「対外発信」」という記事を書いた。だが原稿が長くなってしまったので、本筋から少しずれるところをカットすることになった。自分用の記録という意味も兼ねて、カットした日本の右派による英語発信の歴史部分に若干加筆したものを載せておく。

2000年代初めは南京大虐殺

おそらく1997年にアイリス・チャンの書籍がアメリカで発売され、話題になったなどの展開が影響してか、2000年代初めは、日本の右派は南京大虐殺に関する英語の書籍での発信を行っている。2000年には、竹本忠雄・大原康男『日英バイリンガル 再審「南京大虐殺」』(明誠社2000)という日英対訳本が刊行された。この書籍は日本会議国際広報委員会により編集されたものだ。私の手元にあるのは、2007年発行の第6刷で、帯には「小林よしのりさん『戦争論2』で大推薦!今後海外に留学居住する人にはこの本は必携である」「アメリカを舞台とする反日宣伝に大打撃!」などと書かれている。 


同じ2000年には、Tanaka Masaaki, What Really Happened in Nanking: The Refutation of a Common Myth(世界出版2000)という南京否定論の書籍が、現在「史実を世界に発信する会」の事務局長を務める茂木弘道氏が経営する世界出版から出版された。版元サイトによれば、この本は、『南京で何が本当に起こったのか:よくある神話への反論』、「「南京事件の総括」(田中正明著)の中心部分である「15の論拠」に、ニセ写真説明と朝日新聞の事件当時の特集組み写真とを加えて、南京事件の真相をコンパクトに示した英文書」だという。そして翌2001年には、この本を北米のアジア研究の研究者らに一方的に送付してきたことがアジア研究のメーリングリストH-Asia上で話題になった。その時のMLでの議論によれば、相当数の中国研究、日本研究などの研究者に送られたようだ。
 のち、2008年には、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(教科書議連)が日英対訳版の書籍『南京の実相―国際連盟は「南京2万人虐殺」すら認めなかった』(日新報道2008)を発行した。

2000年代後半は「慰安婦」問題

2007年1月、米下院で、日本政府に「慰安婦」への謝罪を要求する下院121号決議案が出されたことで、日本の右派の動きが目立つようになった。6月14日、保守系論壇人5人からなる「歴史事実委員会」は右派系知識人や国会議員らの賛同を集め、ワシントンポスト紙に英文のTHE FACTS広告を出した。これがアメリカ国内で大きな反発を招いた。米国下院「慰安婦」謝罪決議(H.Res.121)は同年7月30日、全会一致で可決。

翌2008年から「史実を世界に発信する会」(加瀬英明代表、茂木弘道事務局長)は、「反日プロパガンダ」に対抗するとして、メールマガジンやウェブサイトなどの手段で、英文での発信を行い始めた。同会による第1号のメルマガのテーマは、西岡力氏の『よくわかる慰安婦問題』の部分的な英訳だったことからも、2007年のアメリカ下院での「慰安婦」決議のために、英文メルマガ発信を開始したのだろうと考えられる。同会は日本研究関係者のリストを手に入れたと思われ、私にも、頼んでいないにもかかわらず、同会のメルマガが届くようになった。この件に関しても、Association for Asian Studies (AASアジア研究学会)が、この歴史修正主義団体の「不快なメール」とAASは無関係であると、日本研究のメーリングリスト、H-Japan上で声明を出している。

この「史実を世界に発信する会」のメールは、今でも比較的に頻繁に届いており、2015年5月5日に北米の日本研究学者らが中心となって発表した「日本の歴史家を支持する声明」に署名をしたことで新たに届き始めたという人もいるようだ。また、「史実を世界に発信する会」からは、私にも書籍やパンフが何度か送られてきたことがあるし、他にもだいぶ前から時折送られてくるという人もいるようだ。

「歴史戦」と英文情報送付活発化

2012年11月、、The Factsの失敗に懲りず、再度、日本の右派系知識人らが中心の「歴史事実委員会」が、ニュージャージー州の地方紙に、"Yes, we remember the facts."と題された意見広告を掲載した。安倍晋三氏ら国会議員38人も賛同。ニュージャージー州パリセイズパークで2010年に「慰安婦」碑が建てられるなどがあり、同州が注目されたことが背景にあるだろう。だが、ここでも翌2013年、「慰安婦」決議が州の上下両院で可決された。

2014年8月、朝日の検証報道が話題となり、「慰安婦」問題への注目が高まった。その年、「慰安婦」問題に関する英文、もしくは日英両語による小冊子が右派系団体により幾つか発行され、無料配布された。

2015年に入り、幾つかの英文書籍が出版された。今回、猪口議員から送られてきた呉善花著、大谷一郎訳の書籍Getting Over It! Why Korea Needs to Stop Bashing Japan(たちばな出版2015)は、その中でも最も広く配布されているようだ。私にも著者から今年の8月に送られてきたばかりで、私の友人たちで、猪口氏からは書籍を送られていない人たちでも、呉善花氏の本だけは送られているという人たちもいた。ちなみに、ラジオ番組「荻上チキSession 22」でも言及されたが、呉善花氏は、「フジ住宅」の今井光郎会長が理事を務める「一般社団法人今井光郎文化道徳歴史教育研究会」の、2015年度の助成を受けている。助成の内容は、「『Getting Over it! Why Korea Needs to Stop Bashing Japan』3千部、アメリカの政治家、研究家、図書館などに送付」というものだ。 


呉善花氏から私へ送られた書籍と共に同封されていたカード

グレンデール裁判の原告、目良浩一氏も、Comfort Women not “Sex Slaves”: Rectifying the Myriad of Perspectives (Xlibris US, 2015) 英語で書籍を出版した。Xlibrisという出版社は自費出版専門の版元で、書店などへの広い流通は期待できないだろう。だが、GAHTは、目良氏の本と、呉善花氏の書籍、産経の歴史戦の3冊を、サンフランシスコ市議や日本研究学者らに送付したとサイト上で報告しており、目良氏の本も幅広く配布されていると思われる。

そして、今回の猪口議員からの書籍は、アメリカのみならず、オーストラリアにも送られていたこともわかった。オーストラリアでも「慰安婦」像建設案が話題になったこともあり、「歴史戦」の現場の一つとみなされたための送付ではないだろうか。

猪口議員からの書籍が私に届いた後、今度は右派活動家の我那覇真子氏から、英文記事とレターが入った封筒が届いたという声が、北米や日本在住の研究者から届き始めた。(私のところには現段階では届いていない。)沖縄・辺野古関係の研究に関わる学者らに送られているのでは、とも言われている。猪口議員からの封筒とほぼ同じ時期だったため「また似たようなものが来た」という印象が強いことだろう。同封のレターは、日米関係、特に沖縄の米軍駐留は中国の脅威のために重要であるとし、翁長知事を批判する内容だった。猪口議員も、書状の中で、自らの肩書きを間違えて記載していたが、我那覇氏も、”Head of Delegation to the U.S. Council Meeting On Human Rights in Geneva”と記載。おそらく”U.S.”は”U.N.”とすべきところを間違えたのだと思われるが、レターの意味をも変えうるミスではある。全く面識のない人に主張をアピールしたくて送る手紙で、目立つところで間違える、というパターンも続いている。

 育鵬社の新編『新しいみんなの公民』 さながら“安倍晋三ファンブック” 憲法改正に向けての動きを作り出すツール

 育鵬社版の公民教科書は、 国家に貢献できる人材づくりを目指したものだ。そして、前回検定版にも増して、改憲にむけての動きを作り出そうという狙いが 明白な作りである。

 冒頭で「グローバル化」を扱うが、そこでは 国の歴史、伝統、文化を踏まえた存在こそが「グローバル人材」であると定義づけられる。その主張を強化するために、 曽野綾子氏の「よき国際人であるためには、よき日本人であれ」という文章が掲載されている。 他の章でも、 愛国心や国家への意識の重要性が 強調されている。

 日本国憲法の解説として「国民主権天皇」と題された節があるが、 その中に「国民としての自覚」という項目を新設。「国民」の(権利ではなく)義務と責任を強調している。同項のコラムには、東日本大震災の被災地で黙祷する天皇皇后の写真とともに、「日本の歴史には、天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して、国家的な危機を乗り越えた時期が何度もありました 」と書かれている。 別の東日本大震災についての頁も、「自分を犠牲にして住民を守った公務員」や「感動与えた日本人の秩序」など、国家への自己犠牲を賞賛し、 ナショナリズムを煽る内容だ。

 改憲に関連する記述が多いことも特徴だ。「憲法改正のしくみ」については今回「憲法改正要件の比較」という表も追加された。基本的人権に関しても、社会秩序を優先し、個人の権利や自由の行使が制限されることもあるとし、集会・結社の自由の制限などの例を挙げる。 また、新たに「政府の仕事」として追加された「国民を守る防災・減災」という項目では、災害時の危機管理システム構築の重要性が強調される。 現在改憲派にとっての最優先項目だといわれる「緊急事態条項」の導入に直結した内容といえるだろう。

 また、環境権などの新しい人権を憲法に明記すべきだという考え方があるとも書く。さらに 国防の義務が日本国憲法にないことが珍しいということも、繰り返し主張され、 「平和主義と防衛」という節では、有事への備えが現在の法律で不十分であると述べ、中国や北朝鮮の軍事的脅威が強調される。 改憲派が主張していることがもれなく盛り込まれている。

  育鵬社の宣伝誌『虹』によれば、今回の教科書の最大の特色の一つが「人生モノサシ」という図だ。「学校教育の時代」「社会人の時代(結婚を含む)」「親の時代(出産・子育て・家庭教育を含む)」 「高齢期」という人生のモノサシが示されている。結婚や出産、子育てが前提となった画一的なモデルだけが提示され、多様な生き方という視座はない。

  執筆陣は全員男性だ。男女共同参画社会の説明は、基本法の定義とは乖離。「 男女のちがいを認めた上で、たがいに尊重し、助け合う社会をいいます」と説明される。「男女のちがいというものを否定的にとらえることなく、男らしさ、女らしさを大切にしながら…」という記述もあり、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つはたらきをしていると考えられています」と説明されるなど、 家族の一体感や維持の重要性を強調。改憲派の提案する「家族保護条項」に直結した内容だ。

  領土問題については、約4頁にもわたり日本の立場のみが詳細に示される。 辺野古への米軍基地移転は地元への「負担軽減」という解釈も、 政権の立場に偏った記述だ。

 また、人権や差別問題に弱いという本教科書の特徴は、 「人種差別」を海外の問題だとして位置づけ、 「社会権」は外国人に保障されるものではないなどと定義づけにも。 ニートは「学校に通わず就職もしない」と自己責任かのように描かれ、社会構造の問題という視点も非常に弱い。

  他にも、 たとえば村上和雄氏の「 遺伝子の世界とサムシング・グレート」と題するコラムが残ったが、これは 反進化論 「インテリジェント・デザイン」論と近い考え方で、非科学的という指摘もある。ちなみに、 史実にはないとして保守陣営内からの批判もある「江戸しぐさ」については、検定合格後に削除されたという。

  「日本がもっと好きになる教科書」を謳うが、あくまでも安倍政権が理想とする「日本」を好きになれ、というものでしかない。そして、これは「安倍晋三をもっと好きになる 」ための教科書だ。 掲載された安倍氏の写真は15枚に及ぶ。 「安倍晋三ファンブック」と化している本教科書だが、政権の目指す憲法改正のためにはこの上ないツールと見なされるだろう。この動きは止めなくてはならない。

山口智美

(本稿は『週刊金曜日』2015年6月15日号に掲載された山口による執筆記事を、編集部の許可をとり再掲したものです。現在、教科書採択戦の重要な局面が続いていることからアップしました。) 

リプロの視点から「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会での配布レジュメ

昨日、9月6日に文京区民センターで開催された「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会に、発言者の一人として参加させていただきました。(主催団体の一つ、SOSHIRENのサイト掲載の集会案内文もご参照ください。)

そこでの私の発表レジュメ内容をこちらにポストしておきます。(制限時間10分のトークで、レジュメ枚数を1枚におさめようとしたことから、説明がないと意味がわからないところもあるかもしれませんが...)

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山口智美
「『女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案』と『女性の健康の包括的支援法』の関係」


1. 「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法案」(以下、「女性の活躍推進法案」と略)と「女性の健康の包括的支援法案」の関係は?
• 成長戦略の一環としての「女性の活躍」を支える法案
• 「対を成すもの。」(『公明新聞』6月19日)
• 「あわせて、女性の活躍推進のためには、女性の特性に応じた女性の健康の包括的支援が必要である。このため、与党からの提言等も踏まえつつ、所要の施策を総合的に講ずる。」 (「日本再興戦略 改訂2014」p.44 )

2. 「女性の活躍推進法案」をめぐる経緯
• 前回の国会で議員立法提出 (松野博一薗浦健太郎永岡桂子宮川典子藤井比早之、高木美智代、古屋範子、大口善紱 自民党4名と公明党3名の7名。)ジェンダーに敏感な視点で知られる議員はいない。(「女性の健康」法案は、男女共同参画への「バックラッシュ」や憲法改正論者として知られる高市早苗議員が積極的に推進。 )
• 次国会では政府が提出、現在厚生労働省で検討中と報道

3. 2つの法案に共通する問題点
• 前国会での議員提出の「女性の活躍推進法案」より (オリジナルのレジュメで下線を山口がひいた箇所はイタリックにしています)
(基本理念)第二条 女性が活躍できる社会環境の整備は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
 一 男女が、家族や地域社会の絆を大切にし、人生の各段階における生活の変化に応じて、それぞれその有する能力を最大限に発揮して充実した職業生活その他の社会生活を営むとともに、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動について協働することができるよう、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られる社会を実現すること。  (二は略)
 三 少子化社会対策基本法(平成十五年法律第百三十三号)及び子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)の基本理念に配慮すること。
• 「女性の活躍推進法案」では、ワークライフバランス、女性活躍企業に対する助成金など。企業に対し、女性の管理職登用の数値目標や行動計画策定を義務付けるかが最大の論点→どれも男女共同参画社会基本法で取り組める範囲?
• 「女性の活躍推進法案」「女性の健康の包括的支援法案」ともに、「人生の各段階」や「ライフステージ」という考え方が共通。提示される「ライフステージ」とは異なる生き方の女性たちは?(産まない女性、トランス女性、レズビアン女性など)リプロ視点の欠落。 「包括的/切れ目ない支援」などの言葉の持つ意味とは?
• 両法案をつきあわせると、産んで育てて働き続け、家事、介護も担う女性像が浮かぶ。 固定的な性別役割分業の枠内での労働のあり方や健康への対策 ?
• 「性差」前提の法律?「女性の特性」、「心身の特性」という表現の危うさ 、「男女」二元論的枠組みの問題
o 8月31日院内集会での対馬氏発言 「心身の特性」とは「ホルモン特性」→社会・文化的「ジェンダー」の視点ではなく、ホルモン決定主義?
• 「日本再興戦略 改訂2014」では、「活躍」するエリート女性のために家事や介護を担う外国人家事労働者の導入を提言。外国人や移民女性の労働・人権問題や健康という視点はどこに?

4. なぜ、今、女性活躍と女性の健康についての法なのか?
憲法改正議論との関係 − 24条と「家族」をめぐる保守の議論。
男女共同参画社会基本法の無効化

5. アメリカ状況との関連:アメリカをモデルとすることの問題
• リプロをめぐる危機的な状況。”War on Women”
貧困層による医療アクセスの困難。→貧困、階層問題をどう考えるのか?エリート女性のための健康法や施策であってはならない。

レジュメのPDF版はこちらから



参考資料
自公の議員立法案で前回国会に提出された「女性活躍推進法」の概要、法案はこちら

「女性の健康の包括的支援法案」(PDF)
自民党 「女性の健康の包括的支援に向けてー<三つの提言>」

首相官邸ホームページ「日本再興戦略改訂2014」に関する情報

小田嶋隆氏「『女性差別広告』への抗議騒動史」の何が問題なのか?

コラムニストの小田嶋隆氏が、「「女性差別広告」への抗議騒動史」という記事をブログにアップした。そもそもの経緯は、小田嶋氏のツイッターでの「従軍いやん婦」発言にさかのぼる。その発言をめぐる一連の経緯はTogetter「小田嶋隆さんの”従軍いやん婦”発言をめぐるやりとり」参照。Twitterでの経緯から、小田嶋氏がこのブログ記事で言及している「フェミニズム運動にかかわっておられると思しき女性」というのは、私のことを指しているかと思われる。

ブログ記事としてアップし、追記まで加えておきながら、「以後、この問題については、議論しません」というのは、どうなのかとは思う。まあ一方で、私の側とすれば、絶版状態の本の文章をブログで批判するのもどうかと思っていたのだが、アップされたことで誰でも検証できる状態になったこともあり、批判をまとめるよい機会を与えていただいたということになる。小田嶋さん、ありがとうございました。

しかし、小田嶋氏は、コラムの文章全文をアップすれば、「ミソジニーバックラッシュのアンチフェミのセクシストのマッチョ」という疑いがおそらく晴れるであろうと思われた様子なのだが、なぜそんな認識になってしまっているのか不思議だ。アップされた記事も、「ミソジニーバックラッシュの…(以下略)」にしか見えないからだ。

小田嶋氏の「『女性差別広告』への抗議騒動史」 は「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」(1986年から「行動する女たちの会」に改称。96年解散。以下、「行動する会」と記述)による、メディア抗議行動の批判である。 私は博論で、この「行動する会」を扱った。それ以来、今に至るまで私がずっと追い続け、資料を集め、元会員への聴き取りを積み重ねてきたテーマだ。 *1 さらに、『まれに見るバカ女との闘い (別冊宝島Real (050))』は、2000年代前半から中盤にかけて出版が相次いだ、フェミニズムの「バックラッシュ」本の一冊である。私は『社会運動の戸惑い』本のための調査でフェミニズムへのバックラッシュを扱ったが、この「バカ女」シリーズについて、宝島社や関係者に聴き取りを行っている。そんなわけで、小田嶋氏が今回再掲した記事は、私の取り組んできたテーマの、ど真ん中をついていることになる。それもあり、今回反論を書く事にした。

*1:1996年、解散直前の時期に私は会に初めて行った。会員としての活動はほとんどできなかったが、会のニュースレター「行動する女」の最終号には会員からの解散に際してのメッセージの中に私の文章も載っている。そしてその頃、元会員の数名が始めていた、行動する会の記録集をつくるプロジェクトに参加した。その記録集は、1999年、『行動する女たちが拓いた道』として出版。私は、「第1章 マス・メディアの性差別を告発」の執筆グループの一員となり、年表作成にも参加。そのプロセスの参与観察と会員のインタビュ―に基づき博士論文を執筆。その後もずっとフォローは続け、昨年から、行動する会の過去のニュース等の復刻版をつくるプロジェクトに関わり、再び行動する会の元会員らの聴き取りを始めたところである。

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危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

今年の1月15日に発行された、メルマガ“α-Synodos" vol.140「結婚ってなんだろう」特集号に掲載された表題の文章、メルマガ発行後数ヶ月たってそろそろいいのではということで、ブログに掲載することにしました。「婚学」に加え、「親学」についても扱っている文章です。


危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

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「ステキな大人」になるために恋愛、結婚、家庭は必要不可欠!?
九州大学の授業として行われている「婚学」。その問題点を鋭く分析する。

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◇はじめに

「婚学」とは、九州大学の1年生対象の「少人数セミナー」として開講されている授業である。「結婚、恋愛、出産、子育てにフォーカスし、日本ではじめての『婚学』授業」と銘打たれ、商標登録されている。*1 2012年4月から開講されており、当初の20人の定員に100人の履修希望者が殺到するという人気授業だという。担当教員は九州大学大学院の助教で、農学を専門とする佐藤剛史氏。食育に関する一般向けの著書を多く出版し、講演やマスコミ出演も多数だという。だが、経歴を見る限り、ジェンダー論、フェミニズム、家族社会学文化人類学など、「結婚」に関して研究する際に通常必要とされる分野の背景は全くない。

この「婚学」が昨年11月、NHKで放送された「加速する“未婚社会”どう備える」という特集で扱われた。*2 それをきっかけに、九州大学シラバスの記載や、佐藤氏のブログ、Facebookなどに書かれた「婚学」の授業内容に関して、Twitterなどで批判が殺到し、Togetterでも複数のまとめが作られるなど、「炎上」した。Twitter等では、2012年の講座開始以降、「婚学」がメディア報道されるたびに、批判は出ていたようだが、昨年11月以降の反響はとくに大きなものだった。

私は一昨年10月、斉藤正美、荻上チキの2人の共著者とともに、『社会運動の戸惑い―フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)という本を出版した。2000年代前半の「男女共同参画」や「ジェンダーフリー」をめぐる、フェミニズム保守系フェミニズム運動の係争についてまとめたものだった。この本の中で抱き続けたのが、「男女共同参画とは何なのか、誰のための、何のためのものなのか」という問いだったように思う。

『社会運動の戸惑い』のための調査は、2011年段階でほぼ終えていた。そして、2012年の年末に、民主党政権は崩れ、安倍晋三氏の首相返り咲きが起きた。2000年代前半の「バックラッシュ」の動きを先導した1人であった、安倍氏が首相の座についたことで、「男女共同参画」をめぐる状況も当然ながら、相当に変化が起きることにもなった。

本稿では、九州大学の「婚学」の問題をまず議論した後、「婚学」と「男女共同参画」と「少子化対策」の関連について検討する。さらに、安倍政権において、おそらく首相肝いりで「男女共同参画会議」のメンバーになったであろう、高橋史朗明星大学教授が中心となっている「親学」と「婚学」との類似性、及び安倍政権下の「男女共同参画」の方向性との親和性の高さについて述べていきたい。

なお、本稿では九州大学の「婚学」を特に取り上げるが、これ以外にも、「恋愛、結婚、異性とのコミュニケーションについて」学ぶという明治大学での心理学者諸富祥彦氏による「婚育」(講座名は「こころの科学」)、早稲田大学政治学者森川友義氏による「恋愛学」など類似の講座が他大学にも存在する。どの授業も、学生のコミュニケーション能力の欠落により恋愛や結婚につながらないという認識、「結婚のすばらしさ」を説くという姿勢などは、共通したものとなっている。どれも人気講座としてマスコミで注目を集めており、同様の講座が他大学等にも開講されている可能性もある中で、本稿における指摘は九州大学の「婚学」に限定された問題ではなく、より広がりをもつであろうことを記しておきたい。

*1:九州大学の「婚学」のほかに、新潟県で「婚学カレッジ」という団体があり、セミナー、講演、イベント等を開催しているようだが、九州大学のものとは直接的に関係はないと思われる。http://ameblo.jp/gata-con/entry-11460395778.html

*2:授業の履修条件として「1.授業への積極的な参加。2. facebookの使用。3. マスコミの取材への協力。4. 土日を利用したフィールドワークへの参加。」の4点が挙げられている。さらにシラバスにも「マスコミに取り上げられた実績」として、取材をうけた媒体や番組名を列記しており、マスコミ取材が佐藤氏にとって、重要な位置づけとなっていることが伺える。

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