小田嶋隆氏「『女性差別広告』への抗議騒動史」の何が問題なのか?

コラムニストの小田嶋隆氏が、「「女性差別広告」への抗議騒動史」という記事をブログにアップした。そもそもの経緯は、小田嶋氏のツイッターでの「従軍いやん婦」発言にさかのぼる。その発言をめぐる一連の経緯はTogetter「小田嶋隆さんの”従軍いやん婦”発言をめぐるやりとり」参照。Twitterでの経緯から、小田嶋氏がこのブログ記事で言及している「フェミニズム運動にかかわっておられると思しき女性」というのは、私のことを指しているかと思われる。

ブログ記事としてアップし、追記まで加えておきながら、「以後、この問題については、議論しません」というのは、どうなのかとは思う。まあ一方で、私の側とすれば、絶版状態の本の文章をブログで批判するのもどうかと思っていたのだが、アップされたことで誰でも検証できる状態になったこともあり、批判をまとめるよい機会を与えていただいたということになる。小田嶋さん、ありがとうございました。

しかし、小田嶋氏は、コラムの文章全文をアップすれば、「ミソジニーバックラッシュのアンチフェミのセクシストのマッチョ」という疑いがおそらく晴れるであろうと思われた様子なのだが、なぜそんな認識になってしまっているのか不思議だ。アップされた記事も、「ミソジニーバックラッシュの…(以下略)」にしか見えないからだ。

小田嶋氏の「『女性差別広告』への抗議騒動史」 は「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」(1986年から「行動する女たちの会」に改称。96年解散。以下、「行動する会」と記述)による、メディア抗議行動の批判である。 私は博論で、この「行動する会」を扱った。それ以来、今に至るまで私がずっと追い続け、資料を集め、元会員への聴き取りを積み重ねてきたテーマだ。 *1 さらに、『まれに見るバカ女との闘い (別冊宝島Real (050))』は、2000年代前半から中盤にかけて出版が相次いだ、フェミニズムの「バックラッシュ」本の一冊である。私は『社会運動の戸惑い』本のための調査でフェミニズムへのバックラッシュを扱ったが、この「バカ女」シリーズについて、宝島社や関係者に聴き取りを行っている。そんなわけで、小田嶋氏が今回再掲した記事は、私の取り組んできたテーマの、ど真ん中をついていることになる。それもあり、今回反論を書く事にした。

*1:1996年、解散直前の時期に私は会に初めて行った。会員としての活動はほとんどできなかったが、会のニュースレター「行動する女」の最終号には会員からの解散に際してのメッセージの中に私の文章も載っている。そしてその頃、元会員の数名が始めていた、行動する会の記録集をつくるプロジェクトに参加した。その記録集は、1999年、『行動する女たちが拓いた道』として出版。私は、「第1章 マス・メディアの性差別を告発」の執筆グループの一員となり、年表作成にも参加。そのプロセスの参与観察と会員のインタビュ―に基づき博士論文を執筆。その後もずっとフォローは続け、昨年から、行動する会の過去のニュース等の復刻版をつくるプロジェクトに関わり、再び行動する会の元会員らの聴き取りを始めたところである。

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『社会運動の戸惑い』本発売のお知らせ&斉藤正美さんのヌエックに関するエントリ

Twitterにても第一弾のご案内(別名ステマw)を流しましたが、10月末発売予定で『社会運動の戸惑い――フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』という書籍を、斉藤正美さん、荻上チキさんと共著で出すことになりました。

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

社会運動の戸惑い: フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動

ここ5年ほど筆者陣は、2002〜5年頃にピークを迎え、その後もしばらく続いたフェミニズムと草の根保守運動の係争、すなわちフェミニストに「バックラッシュ」と呼ばれた動きに関して、係争の起きた地のいくつかを訪れ、フィールド調査を行ってきました。タイトルにも表れているように、フェミニズム側、そして反フェミニズムの保守運動側(バックラッシュ側)双方に聞き取りを積み重ねてきました。要するに、フェミニストである筆者が、フェミニストのみならず、論争、批判の相手だった保守側の「バックラッシャー/バックラッシュ派」の調査を行い、それに基づいて書いた本です。

この本のプロジェクトはバックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?本、そしてキャンペーンブログでの議論の積み重ね等を通じて始まったようなものです。そんなわけで、「バックラッシュ」といわれた動きへの絡みとしても、そしてこの本ができるまでの経緯からしてもネットは大変重要。しばらく放置してしまっていた「フェミニズムの歴史と理論」ブログも更新していかねばと思っております。その第一弾ということで、早速斉藤正美さんが、ヌエックについて、新たに出た「国立女性教育会館の在り方検討会」の報告書から、ヌエックをめぐる問題について考える内容のエントリをアップしています。ぜひご覧ください。『社会運動の戸惑い』中でも、ヌエックの歴史と現在について詳細に検討した章を斉藤さんが執筆しています。

ヌエックが「戦略的推進機関として創設」される?!

この本をまとめながら(まだ作業は終わっていないw)、扱う時期的にも、ある意味内容的にも、以下の2冊の間をつなぐような本なのかもしれない、と思ったりしているところ。そのへんはまあ追々に。

“癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究

“癒し”のナショナリズム―草の根保守運動の実証研究

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

何が忘れられているのか

前回のエントリと、トラバをいただいた、id:tummygirlさんのエントリ「忘れていたという事実を思い出すために」に関連して。(所用につき時間がなく、まとまっていませんが、とりあえず思いついたことを書き留めておきます)

この部分で、yamtomさんの批判の焦点がどこにあるのか、わたくしは完全には理解し損ねているのだけれども、つまり、「<バックラッシュ>って大騒ぎしているけれども歴史を振り返ればそんなに騒ぐ必用はないだろう」というところなのか、あるいは「<バックラッシュ>が、いわば制度的フェミニズムをどこかで支えている(<バックラッシュ>に対抗するという大義名分のもと、特定の制度的フェミニズム以外のフェミニズムの歴史が積極的に忘却されている)」というところなのだろうか。

tummygirlさんのブログのコメント欄にも書いたのだが、私が言いたかったのは後者の「<バックラッシュ>が、いわば制度的フェミニズムをどこかで支えている(<バックラッシュ>に対抗するという大義名分のもと、特定の制度的フェミニズム以外のフェミニズムの歴史が積極的に忘却されている)」のほう。(確かにわかりづらい書き方でした。すみません。)今のバックラッシュがたいしたことないといっているわけではない。このバックラッシュの背景にある、日本会議がらみの全国的に組織だった動き、そしてネットを通じての動きは、今までと性質が違う面があるのは確かだと思う。

だが、バックラッシュに対抗するという大義名分のもと、特定の制度的フェミニズム以外の歴史の「積極的な忘却」というtummygirlさんの指摘された点と、その忘却に基づく「歴史の塗り替え」がなされているのではないか、という点に関して、かなりの危機感をもっている。典型的なのが混合名簿運動だろう。もともと「教育における性差別撤廃」や「男女平等教育」という名のもとに、地道に草の根的になされてきて、組合などにも広がって行ったという歴史をもつ運動が、いつの間にか「ジェンダーフリー教育」運動の一環という位置づけになっていて、結果、「ジェンダーフリー」概念が導入される1995年以前の混合名簿運動の流れなどが真剣に振り返られていないという事態になっているように思うのだ。(『バックラッシュ!』掲載の長谷川美子さんの論文は、この欠落を埋める貴重な文章だと思う。)混合名簿運動が盛んになりはじめたのは80年代(問題提起は70年代後半からあったようだ)。その「80年代の女性運動の歴史」、もっといえば、初期リブ以降の歴史が、バックラッシュに関連する言説で見事に落ちているのが気になるのだ。

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マスコミ学会での討論

6月10日に熊本で行われた日本マスコミュニケーション学会にて、斉藤正美さん荻上チキさん今井紀明さん北田暁大さんと一緒に、フェミニズムへのバックラッシュに関してのワークショップを行いました。
荻上チキさんのご報告の詳細はすでにご本人がブログにアップしておられます。その基調報告に関連して、討論者の私が話したことを若干手直ししたものを以下にまとめてみました。

ワークショップ全体についての短いレポートは、「ふぇみにすとの雑感」の「マスコミ学会ワークショップのレポートと感想」エントリにまとめてあります。
また、荻上さん今井さん斉藤さんのブログにもワークショップ全体や学会についてのレポートがアップされています。

テープ起こしをしてくださった、チキさん、ありがとうございました!

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ブッシュ政権下におけるアメリカの教育(マーティン&ヒューストンインタビュー、『バックラッシュ!』本未収録部分)

バックラッシュ! なぜジェンダーフリーは叩かれたのか? (キャンペーンブログはhttp://d.hatena.ne.jp/Backlash/)において、ジェーン・マーティンさんとバーバラ・ヒューストンさんという二人の教育学者のインタビューをさせていただいた。
その際、スペースの限界と、インタビューの他の部分と若干テーマ的にずれるところから、収録されなかった部分がある。
短いセクションではあるが、お二人は、ブッシュの政策に基づいたアメリカの教育の現状の問題点、とくに現場の状況に言及されていて、興味深かった。
そこで、ここにその部分を掲載しておこうと思う。

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