上野千鶴子さんの「憲法改正論議」に対する楽観主義

上野千鶴子さんの2月11日付「中日・東京新聞」のインタビュー記事「平等に貧しくなろう」に端を発する議論が巻き起こっている。

決定版とも言えるような、稲葉奈々子さん・高谷幸さん・樋口直人さん共著の上野さんへの回答文も含め、重要な論点はすでに出ているので、私はここでは、一連の議論の中での主要な問題とは外れるところで、上野さんが記事後半で触れている「憲法改正論議」についてほんの軽く感想を。

上野さんはインタビュー記事で、「「国のかたち」を問う憲法改正論議についても、私はあまり心配していない。国会前のデモを通じて立憲主義の理解が広がりました。日本の市民社会はそれだけの厚みを持ってきています。」と書く。

非常に楽観的な解釈なのだが、立憲主義の理解というのはそんなに一般に広がったものなのだろうか。国会前のデモも確かに特に一時期はもりあがりメディアにも報道され、意義はあったと思うが、結局集団的自衛権は通ってしまった。

そして、そうした運動を左派やリベラル側が行なっているのと同様に、日本会議をはじめとした改憲派の団体も、徹底して草の根的な運動を行なっている現実がある。武道館で集会を開いて1万人集めたり、各地で特に女性をターゲットに「おしゃべりカフェ」などの勉強会を開いたり、改憲DVDを製作して各地で上映運動も展開している。

上野さんは「回答」の中では「憲法改正について「心配していない」と言うのは、今の段階で仮に憲法改正国民投票が実施されたとしたら、高い蓋然性で「否決」されるだろうと言う観測からです。」とも言う。

国民投票について予測が甘すぎないだろうか。そもそも上野さんが例示する大阪も、都構想はギリギリで否決されたものだ。そして、その後のBrexitにアメリカ大統領選と、どれも予想は外れている。上野さんご本人もこれは認めているが、世論調査に信頼をそこまで置けるのか疑問だ。

日本会議は2014年から「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を立ち上げ、1000万人署名活動を行っている。この署名はどこかに提出するための署名ではない。国民投票に向けた名簿作りが目的だ。すでに国民投票を見据えて2年以上前から、着々と運動を進めているということだ。
さらに日本会議を支える様々な宗教団体の裾野も大きい。

また、上野さんは「もっとも政権は、解釈改憲でこれだけのことができるのだから、もはや改憲の必要性を感じていないかもしれませんが」とも書く。

だが、安倍在任中の改憲は安倍支持層の右派の悲願だ。2014年から運動本格化をさせ「美しい日本の憲法を作る国民の会」を作り署名運動を始めたのも、安倍在任中の明文改憲という明確な目標があるからだろう。

そして、彼らがこだわる改憲項目は9条だけではない。緊急事態条項や24条、さらには環境権などまで、その時に改憲しやすいところを狙ってくることだろう。フェミニストとしては興味関心のど真ん中である条文の24条は、現在、右派や自民党にとっても優先される改憲項目の一つだが、1954年、当時の自由党憲法調査会が論点として24条を挙げるなど、ずっとターゲットとなってきた。そして、2006年の教育基本法「改正」で「家庭教育」項目を入れたことをはじめとして、安倍氏はずっと「家族」をめぐる問題にこだわりを見せてきた政治家でもある。

2000年代初めの男女共同参画への「バックラッシュ」の時もそうだったが、フェミニストは自分たちが戦っている相手である右派勢力やその運動展開について、もっとしっかり把握すべきなのではないか。実態を見ないで想像に基づいて過度に恐怖を煽るのももちろん問題だが、同様に実態に即さない楽観主義も非常に危ういのではないか。
とくに上野さんは憲法についての著作もあり、講演などで憲法について話すこともあると思われる。影響力がある人だけに、改憲についての根拠不明な楽観主義の広がりにつながるとしたら怖いと思う。

映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVD完成

ついに、映像記録『行動する女が未来を拓くー行動する女たちの会20年の記録』のDVDが完成しました!
DVDは、送料込みで680円で販売します。複数枚ご注文の場合、680円×○枚となります。

お申し込みご希望の方は、「行動する女たちの会」映像を記録する委員会 kodosuruonna@gmail.comあてにメールでお申し込みください。追って、お支払い方法などをメールでご連絡させていただきます。

映像記録は、昨年7月の『行動する女たちの会資料集成』出版記念の集会での元会員の方々のご発言に加え、個別に何人かの元会員の方々にさせていただいたインタビューも収録されています。
また、当時の運動の貴重な写真からは、どんな感じで運動していたかがわかるのではないかと思います。

このプロジェクトのためのインタビュー、3年くらいやってた感じかな。。
私自身も初めてお話を伺う方々もいらっしゃって、DVDに入りきらなかった中での貴重なお話もたくさんありました。

台東区で『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』上映会&トーク

参加費無料・申込不要
=====================
世の中を変えるために行動を起こしてきた
女性たちの声をきいて考えよう!
=====================
日時:9月25日(日)10:30(10時開場)−12:00
場所 : 台東区生涯学習センター4階 台東区立男女平等推進プラザ
   403・404企画室 (台東区西浅草3-25-16)
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/ 

1975年の国際婦人年から、1996年まで、テレビCM「わたし作る人・ぼく
食べる人」への抗議や教科書の女性像・男性像への異議申し立てなど、さまざま
な活動を行ってきた会の映像記録 『行動する女が未来を拓く ―行動する女た
ちの会20年の記録』をみて、ゲストと共に話しましょう。

◆上映作品◆
『行動する女が未来を拓く ―行動する女たちの会20年の記録』
(制作:「行動する女たちの会」映像を記録する委員会/2016年/58分)

トークゲスト◆
山田満枝さん(「行動する女たちの会」映像を記録する委員会)

(参考URL)『行動する女たちの会 資料集成』全8巻(六花出版)の紹介ページ
http://rikka-press.jp/koudousuruonnna/

企画:はばたき21 ドリームプロジェクト habataki21dp@gmail.com
はばたき21ドリームプロジェクトは、台東区立男女平等推進プラザはばたき21の
10周年をきっかけに立ちあがったグループです。

この企画は、2016男女平等推進フォーラム↓のワークショップとして実施します。
https://www.city.taito.lg.jp/index/kurashi/jinken/habataki21/danjobyodoforum/fo-ramu2016.html

リプロの視点から「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会での配布レジュメ

昨日、9月6日に文京区民センターで開催された「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会に、発言者の一人として参加させていただきました。(主催団体の一つ、SOSHIRENのサイト掲載の集会案内文もご参照ください。)

そこでの私の発表レジュメ内容をこちらにポストしておきます。(制限時間10分のトークで、レジュメ枚数を1枚におさめようとしたことから、説明がないと意味がわからないところもあるかもしれませんが...)

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山口智美
「『女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案』と『女性の健康の包括的支援法』の関係」


1. 「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法案」(以下、「女性の活躍推進法案」と略)と「女性の健康の包括的支援法案」の関係は?
• 成長戦略の一環としての「女性の活躍」を支える法案
• 「対を成すもの。」(『公明新聞』6月19日)
• 「あわせて、女性の活躍推進のためには、女性の特性に応じた女性の健康の包括的支援が必要である。このため、与党からの提言等も踏まえつつ、所要の施策を総合的に講ずる。」 (「日本再興戦略 改訂2014」p.44 )

2. 「女性の活躍推進法案」をめぐる経緯
• 前回の国会で議員立法提出 (松野博一薗浦健太郎永岡桂子宮川典子藤井比早之、高木美智代、古屋範子、大口善紱 自民党4名と公明党3名の7名。)ジェンダーに敏感な視点で知られる議員はいない。(「女性の健康」法案は、男女共同参画への「バックラッシュ」や憲法改正論者として知られる高市早苗議員が積極的に推進。 )
• 次国会では政府が提出、現在厚生労働省で検討中と報道

3. 2つの法案に共通する問題点
• 前国会での議員提出の「女性の活躍推進法案」より (オリジナルのレジュメで下線を山口がひいた箇所はイタリックにしています)
(基本理念)第二条 女性が活躍できる社会環境の整備は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
 一 男女が、家族や地域社会の絆を大切にし、人生の各段階における生活の変化に応じて、それぞれその有する能力を最大限に発揮して充実した職業生活その他の社会生活を営むとともに、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動について協働することができるよう、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られる社会を実現すること。  (二は略)
 三 少子化社会対策基本法(平成十五年法律第百三十三号)及び子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)の基本理念に配慮すること。
• 「女性の活躍推進法案」では、ワークライフバランス、女性活躍企業に対する助成金など。企業に対し、女性の管理職登用の数値目標や行動計画策定を義務付けるかが最大の論点→どれも男女共同参画社会基本法で取り組める範囲?
• 「女性の活躍推進法案」「女性の健康の包括的支援法案」ともに、「人生の各段階」や「ライフステージ」という考え方が共通。提示される「ライフステージ」とは異なる生き方の女性たちは?(産まない女性、トランス女性、レズビアン女性など)リプロ視点の欠落。 「包括的/切れ目ない支援」などの言葉の持つ意味とは?
• 両法案をつきあわせると、産んで育てて働き続け、家事、介護も担う女性像が浮かぶ。 固定的な性別役割分業の枠内での労働のあり方や健康への対策 ?
• 「性差」前提の法律?「女性の特性」、「心身の特性」という表現の危うさ 、「男女」二元論的枠組みの問題
o 8月31日院内集会での対馬氏発言 「心身の特性」とは「ホルモン特性」→社会・文化的「ジェンダー」の視点ではなく、ホルモン決定主義?
• 「日本再興戦略 改訂2014」では、「活躍」するエリート女性のために家事や介護を担う外国人家事労働者の導入を提言。外国人や移民女性の労働・人権問題や健康という視点はどこに?

4. なぜ、今、女性活躍と女性の健康についての法なのか?
憲法改正議論との関係 − 24条と「家族」をめぐる保守の議論。
男女共同参画社会基本法の無効化

5. アメリカ状況との関連:アメリカをモデルとすることの問題
• リプロをめぐる危機的な状況。”War on Women”
貧困層による医療アクセスの困難。→貧困、階層問題をどう考えるのか?エリート女性のための健康法や施策であってはならない。

レジュメのPDF版はこちらから



参考資料
自公の議員立法案で前回国会に提出された「女性活躍推進法」の概要、法案はこちら

「女性の健康の包括的支援法案」(PDF)
自民党 「女性の健康の包括的支援に向けてー<三つの提言>」

首相官邸ホームページ「日本再興戦略改訂2014」に関する情報

小田嶋隆氏「『女性差別広告』への抗議騒動史」の何が問題なのか?

コラムニストの小田嶋隆氏が、「「女性差別広告」への抗議騒動史」という記事をブログにアップした。そもそもの経緯は、小田嶋氏のツイッターでの「従軍いやん婦」発言にさかのぼる。その発言をめぐる一連の経緯はTogetter「小田嶋隆さんの”従軍いやん婦”発言をめぐるやりとり」参照。Twitterでの経緯から、小田嶋氏がこのブログ記事で言及している「フェミニズム運動にかかわっておられると思しき女性」というのは、私のことを指しているかと思われる。

ブログ記事としてアップし、追記まで加えておきながら、「以後、この問題については、議論しません」というのは、どうなのかとは思う。まあ一方で、私の側とすれば、絶版状態の本の文章をブログで批判するのもどうかと思っていたのだが、アップされたことで誰でも検証できる状態になったこともあり、批判をまとめるよい機会を与えていただいたということになる。小田嶋さん、ありがとうございました。

しかし、小田嶋氏は、コラムの文章全文をアップすれば、「ミソジニーバックラッシュのアンチフェミのセクシストのマッチョ」という疑いがおそらく晴れるであろうと思われた様子なのだが、なぜそんな認識になってしまっているのか不思議だ。アップされた記事も、「ミソジニーバックラッシュの…(以下略)」にしか見えないからだ。

小田嶋氏の「『女性差別広告』への抗議騒動史」 は「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」(1986年から「行動する女たちの会」に改称。96年解散。以下、「行動する会」と記述)による、メディア抗議行動の批判である。 私は博論で、この「行動する会」を扱った。それ以来、今に至るまで私がずっと追い続け、資料を集め、元会員への聴き取りを積み重ねてきたテーマだ。 *1 さらに、『まれに見るバカ女との闘い (別冊宝島Real (050))』は、2000年代前半から中盤にかけて出版が相次いだ、フェミニズムの「バックラッシュ」本の一冊である。私は『社会運動の戸惑い』本のための調査でフェミニズムへのバックラッシュを扱ったが、この「バカ女」シリーズについて、宝島社や関係者に聴き取りを行っている。そんなわけで、小田嶋氏が今回再掲した記事は、私の取り組んできたテーマの、ど真ん中をついていることになる。それもあり、今回反論を書く事にした。

*1:1996年、解散直前の時期に私は会に初めて行った。会員としての活動はほとんどできなかったが、会のニュースレター「行動する女」の最終号には会員からの解散に際してのメッセージの中に私の文章も載っている。そしてその頃、元会員の数名が始めていた、行動する会の記録集をつくるプロジェクトに参加した。その記録集は、1999年、『行動する女たちが拓いた道』として出版。私は、「第1章 マス・メディアの性差別を告発」の執筆グループの一員となり、年表作成にも参加。そのプロセスの参与観察と会員のインタビュ―に基づき博士論文を執筆。その後もずっとフォローは続け、昨年から、行動する会の過去のニュース等の復刻版をつくるプロジェクトに関わり、再び行動する会の元会員らの聴き取りを始めたところである。

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危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

今年の1月15日に発行された、メルマガ“α-Synodos" vol.140「結婚ってなんだろう」特集号に掲載された表題の文章、メルマガ発行後数ヶ月たってそろそろいいのではということで、ブログに掲載することにしました。「婚学」に加え、「親学」についても扱っている文章です。


危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

━━━━━━━━━

「ステキな大人」になるために恋愛、結婚、家庭は必要不可欠!?
九州大学の授業として行われている「婚学」。その問題点を鋭く分析する。

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◇はじめに

「婚学」とは、九州大学の1年生対象の「少人数セミナー」として開講されている授業である。「結婚、恋愛、出産、子育てにフォーカスし、日本ではじめての『婚学』授業」と銘打たれ、商標登録されている。*1 2012年4月から開講されており、当初の20人の定員に100人の履修希望者が殺到するという人気授業だという。担当教員は九州大学大学院の助教で、農学を専門とする佐藤剛史氏。食育に関する一般向けの著書を多く出版し、講演やマスコミ出演も多数だという。だが、経歴を見る限り、ジェンダー論、フェミニズム、家族社会学文化人類学など、「結婚」に関して研究する際に通常必要とされる分野の背景は全くない。

この「婚学」が昨年11月、NHKで放送された「加速する“未婚社会”どう備える」という特集で扱われた。*2 それをきっかけに、九州大学シラバスの記載や、佐藤氏のブログ、Facebookなどに書かれた「婚学」の授業内容に関して、Twitterなどで批判が殺到し、Togetterでも複数のまとめが作られるなど、「炎上」した。Twitter等では、2012年の講座開始以降、「婚学」がメディア報道されるたびに、批判は出ていたようだが、昨年11月以降の反響はとくに大きなものだった。

私は一昨年10月、斉藤正美、荻上チキの2人の共著者とともに、『社会運動の戸惑い―フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)という本を出版した。2000年代前半の「男女共同参画」や「ジェンダーフリー」をめぐる、フェミニズム保守系フェミニズム運動の係争についてまとめたものだった。この本の中で抱き続けたのが、「男女共同参画とは何なのか、誰のための、何のためのものなのか」という問いだったように思う。

『社会運動の戸惑い』のための調査は、2011年段階でほぼ終えていた。そして、2012年の年末に、民主党政権は崩れ、安倍晋三氏の首相返り咲きが起きた。2000年代前半の「バックラッシュ」の動きを先導した1人であった、安倍氏が首相の座についたことで、「男女共同参画」をめぐる状況も当然ながら、相当に変化が起きることにもなった。

本稿では、九州大学の「婚学」の問題をまず議論した後、「婚学」と「男女共同参画」と「少子化対策」の関連について検討する。さらに、安倍政権において、おそらく首相肝いりで「男女共同参画会議」のメンバーになったであろう、高橋史朗明星大学教授が中心となっている「親学」と「婚学」との類似性、及び安倍政権下の「男女共同参画」の方向性との親和性の高さについて述べていきたい。

なお、本稿では九州大学の「婚学」を特に取り上げるが、これ以外にも、「恋愛、結婚、異性とのコミュニケーションについて」学ぶという明治大学での心理学者諸富祥彦氏による「婚育」(講座名は「こころの科学」)、早稲田大学政治学者森川友義氏による「恋愛学」など類似の講座が他大学にも存在する。どの授業も、学生のコミュニケーション能力の欠落により恋愛や結婚につながらないという認識、「結婚のすばらしさ」を説くという姿勢などは、共通したものとなっている。どれも人気講座としてマスコミで注目を集めており、同様の講座が他大学等にも開講されている可能性もある中で、本稿における指摘は九州大学の「婚学」に限定された問題ではなく、より広がりをもつであろうことを記しておきたい。

*1:九州大学の「婚学」のほかに、新潟県で「婚学カレッジ」という団体があり、セミナー、講演、イベント等を開催しているようだが、九州大学のものとは直接的に関係はないと思われる。http://ameblo.jp/gata-con/entry-11460395778.html

*2:授業の履修条件として「1.授業への積極的な参加。2. facebookの使用。3. マスコミの取材への協力。4. 土日を利用したフィールドワークへの参加。」の4点が挙げられている。さらにシラバスにも「マスコミに取り上げられた実績」として、取材をうけた媒体や番組名を列記しており、マスコミ取材が佐藤氏にとって、重要な位置づけとなっていることが伺える。

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*[男女共同参画] 危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

今年の1月15日に発行された、メルマガ“α-Synodos" vol.140「結婚ってなんだろう」特集号に掲載された表題の文章、メルマガ発行後数ヶ月たってそろそろいいのではということで、ブログに掲載することにしました。「婚学」に加え、「親学」についても扱っている文章です。


危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

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「ステキな大人」になるために恋愛、結婚、家庭は必要不可欠!?
九州大学の授業として行われている「婚学」。その問題点を鋭く分析する。

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◇はじめに

「婚学」とは、九州大学の1年生対象の「少人数セミナー」として開講されている授業である。「結婚、恋愛、出産、子育てにフォーカスし、日本ではじめての『婚学』授業」と銘打たれ、商標登録されている。*1 2012年4月から開講されており、当初の20人の定員に100人の履修希望者が殺到するという人気授業だという。担当教員は九州大学大学院の助教で、農学を専門とする佐藤剛史氏。食育に関する一般向けの著書を多く出版し、講演やマスコミ出演も多数だという。だが、経歴を見る限り、ジェンダー論、フェミニズム、家族社会学文化人類学など、「結婚」に関して研究する際に通常必要とされる分野の背景は全くない。

この「婚学」が昨年11月、NHKで放送された「加速する“未婚社会”どう備える」という特集で扱われた。*2 それをきっかけに、九州大学シラバスの記載や、佐藤氏のブログ、Facebookなどに書かれた「婚学」の授業内容に関して、Twitterなどで批判が殺到し、Togetterでも複数のまとめが作られるなど、「炎上」した。Twitter等では、2012年の講座開始以降、「婚学」がメディア報道されるたびに、批判は出ていたようだが、昨年11月以降の反響はとくに大きなものだった。

私は一昨年10月、斉藤正美、荻上チキの2人の共著者とともに、『社会運動の戸惑い―フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)という本を出版した。2000年代前半の「男女共同参画」や「ジェンダーフリー」をめぐる、フェミニズム保守系フェミニズム運動の係争についてまとめたものだった。この本の中で抱き続けたのが、「男女共同参画とは何なのか、誰のための、何のためのものなのか」という問いだったように思う。

『社会運動の戸惑い』のための調査は、2011年段階でほぼ終えていた。そして、2012年の年末に、民主党政権は崩れ、安倍晋三氏の首相返り咲きが起きた。2000年代前半の「バックラッシュ」の動きを先導した1人であった、安倍氏が首相の座についたことで、「男女共同参画」をめぐる状況も当然ながら、相当に変化が起きることにもなった。

本稿では、九州大学の「婚学」の問題をまず議論した後、「婚学」と「男女共同参画」と「少子化対策」の関連について検討する。さらに、安倍政権において、おそらく首相肝いりで「男女共同参画会議」のメンバーになったであろう、高橋史朗明星大学教授が中心となっている「親学」と「婚学」との類似性、及び安倍政権下の「男女共同参画」の方向性との親和性の高さについて述べていきたい。

なお、本稿では九州大学の「婚学」を特に取り上げるが、これ以外にも、「恋愛、結婚、異性とのコミュニケーションについて」学ぶという明治大学での心理学者諸富祥彦氏による「婚育」(講座名は「こころの科学」)、早稲田大学政治学者森川友義氏による「恋愛学」など類似の講座が他大学にも存在する。どの授業も、学生のコミュニケーション能力の欠落により恋愛や結婚につながらないという認識、「結婚のすばらしさ」を説くという姿勢などは、共通したものとなっている。どれも人気講座としてマスコミで注目を集めており、同様の講座が他大学等にも開講されている可能性もある中で、本稿における指摘は九州大学の「婚学」に限定された問題ではなく、より広がりをもつであろうことを記しておきたい。

*1:九州大学の「婚学」のほかに、新潟県で「婚学カレッジ」という団体があり、セミナー、講演、イベント等を開催しているようだが、九州大学のものとは直接的に関係はないと思われる。http://ameblo.jp/gata-con/entry-11460395778.html

*2:授業の履修条件として「1.授業への積極的な参加。2. facebookの使用。3. マスコミの取材への協力。4. 土日を利用したフィールドワークへの参加。」の4点が挙げられている。さらにシラバスにも「マスコミに取り上げられた実績」として、取材をうけた媒体や番組名を列記しており、マスコミ取材が佐藤氏にとって、重要な位置づけとなっていることが伺える。

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