フェミニズムとコミュニケーション手段の盛衰(ML、FAX通信、ブログ)

前エントリにて、閉じたMLばかりに参加する引っ込み思案なフェミニズムの問題を書いた。
youlalaさんがコメント欄にて、fem-netに触れられていたので思い出したのだが、私は2000年頃だったか、fem-netについて内部でチームをつくり評価し、国際的に同様な団体などがどのようにコミュニケーションテクノロジーを使っているかなどと、比較検討しようというようなプロジェクトに参加したことがあった。そのfem-netプロジェクトは、いろいろあって、結局空中分解のような形になってダメになってしまったのだが、その時に当時のfem-netの現状だとか、問題点についていろいろ話し合ったり、意見を聞いたりした記憶がある。私自身はfem-netの管理チームにはいっていたわけではないのだが、けっこうその頃は書き込んだり、議論したりしていたのもあって、中心になっていた人にプロジェクトに誘われたのだった。
当時の議論データについては、保存しておらずなくなってしまったが、記憶に残っている問題として、当時のfem-netでも、書き込む人たちが限定されているとか、情報をいろいろ持っているはずの学者もたくさん入っているはずなのに、情報を得るばかりで貢献していないとか、議論が他の社会運動系MLに比べて少ないだとかいう問題が提示されたような記憶がある。(プロジェクトでいっしょだったdiscourさん、何か追加があればよろしくお願いします。)
また、MLとは何か、そもそもメールはどうやって書くべきかなどもわからなかった人たちに懇切丁寧に説明し、決してもともとパソコンができたともいえない人たちをも巻き込んで管理チームをつくり、運営していた中心の人のリーダーシップはすごいものがあった。

その頃はウェブはあったけれど、リアルタイムの発信や意見交換という面では、MLが主な手段だった。そして、fem-netは様々なリストにわかれていたが、そのうちのいくつかは自分で操作し、入会できるシステムだった。また、ウェブサイトを通じて掲示板をつくったりもしていた。fem-netは、当時のフェミニズムにおける情報交換の一番大きな手段だったようにおもう。

fem-netのほかに、JJ NetというFAX通信もあって、これも90年代後半〜2000年代前半くらいのフェミニズムの大きな情報交換手段になっていた。私もこのFAX通信をとっていて、そのうちメールでも配信が可能になり、しばらくはとっていたのだが、有料ということと、ウェブの普及でとくにJJ NETに頼らずとも日本の情報が手にはいることになり、私はとるのをやめてしまった。それからしばらくして、JJ NETじたいも終わってしまったのだった。

しかし考えてみれば、JJ-NET(有料で、編集者がいた)とfem-net(無料のML)とが中心的情報のソースや、情報交換手段になっていた時代も、JJ-NETにはいわゆる「有名」な女性学者たちの名前をよく見たが、fem-netでは見ることはひどく少なかった気がする。ただの学生だった私が、せっせとfem-netに投稿していただけで、ときどき集会などにいくと「いつもfem-netでみてます」などと言われ、何とも恥ずかしい気分になったりすることもあったが、「私もfem-netによく投稿してます」という人とはそんなに会わなかった。JJ-NETという媒体は、北京会議以降の日本の女性運動の状況を考える上で、重要かもしれない。あのメディアがある種の、フェミニズム内での権威ある情報ソースとして捉えられたような面がある気がするのだ。

fem-netはMLだけれど、いちばん活発なfem-generalは誰でも自動操作で入会できる、オープンなMLである。だが、そのfem-netの投稿も、最近かなり減った。90年代の頃にくらべたら、かなり閑散としてしまっていると思う。(「女性だけ」という条件だったクローズドなfemリストは、ほとんど開店休業状態だ。)そのかわり、クローズドなMLにフェミニズムの情報交換や議論の場がうつってしまったようだ。そのなかでも、女性学主導のMLが一番活発なように思われる状況である。ここからも、比較的運動主導の動きから、学者主導の動きにうつっていったというここ10年ほどの日本のフェミニズムの動きがみえてくるようだ。

そして、今はフェミニストたちはオープンでインタラクティブなブログにはなかなか出てこないまま、クローズドなMLでひたすら議論をしている。(そのクローズドなMLでも十分活発な議論がされているのか、、というとそうでもなかったりするが。)コミュニケーション手段の盛衰の歴史からも、なんとなく引っ込み思案なフェミニズムの現状が見えてくるような気がする。