団体アカウントでの匿名発信とその責任のありか

「フェミニズムとインターネット問題を考える」サイトで、私の担当箇所では、匿名発信の問題を扱った。この場合の「匿名発信」とは、実名を使わない発信という意味ではなく、個人としてのハンドルネームを使わずに、団体アカウントを使い、更新者が誰か(ハンドルネームでも)明らかにならない状態でネット発信をすることを指している。

「ネット・メディア利用全体として」においては、以下のように書いた。

インターネットでの発信が普及するにつれ、運動体が団体のアカウントを使い発信するケースも増えた。それに伴い、団体名やアカウントを使い、団体に属する個人がその更新を担いつつ、個人的な意見を表明したりするケースも見られるようになった。団体としての発信なのか、個人的な意見なのか区別がつけづらい場合が多いし、発信者が個人としての名前やハンドルネームを使わず、団体名だけで発信する場合、発信者が誰かが明らかではなく、その発言の責任の所在がどこなのか不明になりがちである。

このように団体アカウントの中に隠れて、匿名のまま個人的スタンスが打ち出された発言をするということは、記述内容の責任を誰がとるのかが不明であることもあいまって、無責任発言、誹謗中傷が起き易い土壌をつくりだしがちだ。印刷媒体なら出す際に編集、校正をしっかりするなどして、団体としての発信であり、編集責任があることが自覚されることが多いが、ネット発信、しかもパーソナルな声や即興の発信がしやすい、ブログ、SNS(twitter, mixi, facebookなど)においては、団体や世話人レベルでの文面などの検討プロセスを経ずに発信される。そういった発信や記述内容の責任は誰がとるのかは不明なままのケースも多い。団体の代表なのか、それとも発信者なのか、団体の中でも曖昧にすまされていたりする。また、ネット媒体においてどのような発信をするべきなのかも、発信者個人におんぶにだっこになり、団体として考えていないことも多いし、団体のメンバーが知らないままである場合もある。

この問題提起は、「団体で意見が一致しなければいけない」とか「団体、フェミニズム全体の印象を悪くするのをやめろ」という主張ではなく、発言の責任のありかを団体でしっかり議論し、誹謗中傷や人権侵害を起こさないシステムをつくること、また万が一、自団体の発信が人権侵害などの問題を引き起した場合、どのように対応し、必要なときには謝罪をするのかも、しっかり議論することが必要だという主張である。


また、ブログに関しても、団体名を使っての匿名発信の問題を扱った。(ブログ設置の目的・経緯と匿名発信の問題

ホームページに比べ、ブログは更新ハードルが低く、パーソナルな発信をしやすいメディアだった。最近、より更新ハードルが低い、twitterfacebookなどのSNS媒体が増えている。また、SNSはブログよりもよりパーソナルな要素を打ち出している面があり(例えばtwitterの「つぶやき」など)、文章確認などのプロセスをせず瞬時に発信することができるメディアでもある。こういったSNSアカウントにも、市民団体のアカウントがあり、その中で個人が発信をしているが、その個人が誰かは明らかではなく、団体のアカウントにおいてきわめて個人的な発信をしているケースも見受けられる。だが、ファイトバックの会のブログのケースでわかるように、団体アカウントを匿名個人が利用して発信するということは、もっとも発信者の責任が問われづらく、誹謗中傷も起き易い土壌をつくるのではないか。

ファイトバックの会のブログやホームページでは、更新者が誰かを団体内でさえもはっきり明示していなかったし、とくに原告が実質上の更新者だったブログにおいては、「Webチーム」として集団更新かのように見せてしまってもいたため、ますます責任のありかが不明になりがちだったと思う。私がファイトバックの件から得た教訓は、ハンドルネームでもいいから、いったい誰が、何人の人が更新作業に関わっているのかなど、更新の状況について団体内はもちろんのこと、外部にむけても明らかにすべきだったということだ。もちろん常にこの方法がよいかどうかはわからないが、最低限、団体名を使ってのネット発信の場合、個人発信ではなく、団体のスタンスであると捉えられること、そしてそこでの更新者、発信者情報が不明のままだと、誹謗中傷につながりやすいことを意識して発信を行うこと、そして何らかの問題がおきた場合の対処の方法や責任のありかについて、団体内でしっかり話し合うことは重要だと思う。