アウェア「デートDV」ビデオの危うさ

斉藤正美さんが昨年末、「デートDV講座への疑問」というエントリで、アウェアのデートDV講座が全国各地の行政講座などで流行しているが、その中身への疑問を提示している。私も最近、フェミニスト教員の友人に、デートDV講座が学校まわりで流行っており、そこで見せているビデオがトンでもない内容で困っているという話を聞いた。暴力の被害者に対して、その関係から逃げるよりも、むしろとどまって改善をめざすように呼びかけていると理解されてしまいかねない内容だというのだ。

これはぜひビデオを見てみなくてはと思い、先日、早速東京ウィメンズプラザでアウェアの『デートDV −相手を尊重する関係をつくる』というビデオをみてみた。

まず、デートDVとは大人だけの問題ではなく、交際中の若い人にも関係するのだという説明があり、高校二年生のアヤとヒロのカップルが紹介される。(べつに「若い人」じゃなくても当てはまるんだけどね。。)ヒロはアヤが男とメールしていたと怒り、アヤの携帯を勝手にみたり、バイトを休ませたり、セックスに応じないと怒り暴力をふるい、、という事例が紹介される。そして、暴力には身体的、性的、経済的暴力の3種類がある、という説明がある。

その後、アヤとヒロの気持ちのそれぞれを、カウンセラーらしき中年女性(山口のり子さんか?)が聞くシーンがあり、「なぜDVが起きるのでしょう?」という説明がはじまる。
その説明は以下の3つだ。

1 力と支配 −児童虐待やしごき、体罰、いじめ、セクハラ、パワハラ、リストラなどが蔓延する社会では、力をもつ人がもたない人を抑えつけていいのだ、というメッセージが伝えられているのだ、といった説明。リストラだけなんかちょっと性質が違うような気がするが、、うーん。

2 暴力容認−漫画、ゲーム、ビデオ、DVD,インターネットなど、そして家庭内においても暴力があふれる中では、いつの間にかそれに慣れてしまい、暴力を容認してしまうようになる、といった説明。メディアで暴力表現があったり、それを好んで消費したりすることと、実際に暴力をふるうことにはかなりの差異があるけれど、そのへんは華麗にスルー。

3 ジェンダーバイアス−比較的軽く流して説明された上記の2ポイントに対して、ここに来て突然、アウェアの山口のり子さん自らが登場。明らかに気合いがはいっている。(が、教員の友人いわく、「ジェンダーバイアス」という言がでてきた途端、学生は寝る」とのこと。)そして、「ジェンダーとは社会的性別のこと」、「バイアスとは偏見、偏った見方のことで」云々の解説が始まる。「男らしさ」とは自己中心的、威圧的、攻撃的などで、女らしさとはやさしく、控えめ、おとなしく従順で決断力がないなどといった解説がはいり、男らしさ、女らしさにこだわりすぎた結果、力の差や上下関係ができ、女性が自分らしさをなくし、傷つき混乱するのだという。ジェンダーバイアスの影響で男のDVが起きるので、男らしさ、女らしさが偏っていないかチェックし自分らしさを大切にしましょうね、というメッセージが山口さんによって発信されている。

この後、「本当に大切なことを学んだ二人」として、大学生カップルが登場。この大学生カップルの男は以前はデートDV的行動をとっていたらしい。このカップルの男が、高校生のヒロの、女のほうが高校生のアヤの話をきいて、説教をするという展開である。「自分の気持ちを素直に伝えてみろよ」と大学生男は高校生ヒロに言い、大学生女はアヤに自分の気持ちも大切にして、しっかり伝えろといい、結果としてヒロとアヤは気づいてしまい、デートDV関係から脱却し、関係性が変わった、という結末だ。

要するに、このビデオにおいて、デートDVの原因として、「ジェンダーバイアス」に加重が思い切りかかった説明になってしまっているのだ。そして、伝わってくるメッセージは、デートDV解決のためには、「男らしさ」「女らしさ」について考え、自分の気持ちを相手に伝え、話し合おう、といったものである。

だが、暴力の被害にあっている人に対して、自分の気持ちを暴力をふるう相手に伝え、話し合おう、それでこそDV状況が解決するのだと呼びかけるというのは、どんなものなんだか。。かえって被害を拡大することにつながりかねないのではないか。

最後についでのおまけのように、「男の被害者も女の加害者もいて、親密な関係の同性間にも起こります」といった説明がはいる。ジェンダーバイアスだの、「男らしさ」「女らしさ」がDVの原因であり、これをなんとかすることこそが解決法であるといったようなことをこれだけ強調した後で、突然「男の被害者」「同性間」といわれても、説得力がまるでない。「親密な関係の同性間」というなんともビミョーな表現も、なんだかなあ。。「同性間カップル」とあえて言わなかったのはなぜなんだろう、と勘ぐってしまうよ。(だからこそ、行政講座でも好かれる内容なのかもしれない?)