台湾「慰安婦」像足蹴事件は、右派団体による「歴史戦」のひとつにすぎない

初出:wezzy(株式会社サイゾー)2018年11月13日

 

の右派団体「慰安婦像の真実国民運動」幹事の藤井実彦氏が、台湾に初めて設置された「慰安婦」像に蹴りを入れているように見える姿が監視カメラの映像から発覚した事件を覚えているだろうか。この「慰安婦」像は2018年8月に中国国民党台南市支部によって設置されたもので、藤井氏らはこの像の即時撤去を求め、9月6日、同支部に公開質問状を手渡す目的で台湾を訪れていた。

 当初は蹴りを入れたというのは全くの捏造だと主張していた藤井氏は、動画が公開されると「ストレッチをしただけであり、蹴っていない」などと釈明する。しかし、同じく捏造を主張していた「慰安婦の真実国民運動」は、9月12日に代表の加瀬英明名で 「藤井氏が慰安婦像を蹴るようなそぶりをしたことは明らか」とする、謝罪文を発表。藤井氏は9月11日付で同会の幹事を辞任している。

 一方、同会は国民党への公開質問状に関しては取り下げていないし、11月6日付で、再度回答を求める要求文書を送付している。また、藤井氏は現在(2018年11月12日)も自らの非を認めていない。藤井氏が幹事を辞任した後に更新された「慰安婦の真実国民運動」のサイトでも未だに藤井氏が代表を務める「論破プロジェクト」が加盟団体として記載されていることから、藤井氏の同会への関わりは続いていると考えられる。

 「慰安婦の真実国民運動」は、これまでも「慰安婦」問題を巡る国内外での「歴史戦」に関わってきた。先月10月には、「慰安婦映画上映会を茅ヶ崎市が後援したことについて、茅ヶ崎市長、教育長と会場の茅ヶ崎市民文化会館に対して申入書を送り、市民に抗議を呼びかけるなどして騒動を起こし、自民党市議団が市に抗議を行うという展開が起きたばかりだ。そして、同会や藤井氏が、国際問題を引き起こしたのも今回が初めてではない。

 本稿では、「慰安婦の真実国民運動」や関連する右派団体が特に海外でいかに「歴史戦」を繰り広げてきたのかをまとめたい。今回の騒動は、藤井氏や「慰安婦の真実国民運動」に限定されない、日本政府や政治家をも含めた、大きな流れのひとつであることがわかるだろう。

慰安婦の真実国民運動とは

 2011年12月、ソウルの日本大使館前に「平和の少女像」が設置されて以来、続々と海外に建設される「慰安婦」の碑や像は日本政府や日本の右派の批判の的になった。また月刊誌『正論』2012年5月号(4月発売)に、ジャーナリストの岡本明子氏が、2010年に設置されてから特に大きな注目を浴びてこなかった、アメリカニュージャージー州パリセイズパーク市の「慰安婦」の碑が設置されたために米国で日本人がいじめ被害にあっていると主張する「米国の邦人子弟がイジメ被害 韓国慰安婦反日宣伝が蔓延する構図」と題した記事を寄稿すると、在ニューヨーク日本総領事館が市に対して碑の撤去を要求した。さらに5月、古屋圭司山谷えり子議員ら四人からなる自民党議員団が同市を訪問し、碑の撤去を要求した。こうした動きがニューヨークタイムズの記事となり、碑が大きな注目を集めることになった。

 その後、「慰安婦」碑や像の建設計画のたびに、日本から大量の抗議メールが送られ、日本政府も阻止に向けて動くという事態が続いている。民間の運動として、海外での「慰安婦」の碑や像建設への反対の動きを牽引したのが、ソウルの日本大使館前に「慰安婦」少女像が設置された2011年末に本格的な活動を開始した女性団体「なでしこアクション」だった。代表は、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の元副代表・事務局長だった山本優美子氏だ。

 2013年には、ロサンゼルス近郊のカリフォルニア州グレンデール市に、全米で初めて、ソウルの日本大使館前に設置されているものと同じ「平和の少女像」が設置された。設置決定前の公聴会には、在米日本人右派らが参加し、日本の右派の注目を集めた。

 このグレンデールの少女像が大きなきっかけとなり発足したのが「慰安婦の真実国民運動」だ。設立の日付は、少女像の除幕式が行われた7月30日の1日前に当たる。同団体設立当時の幹事長、松木國俊氏は、「アメリカ在住の同志とも連絡を取り合って、「慰安婦の碑」建設反対の大運動を展開します」と述べ、海外の「慰安婦」問題に関する「歴史戦」への対抗ということを強調した(新しい歴史教科書をつくる会『史』2013年9月号 p.27)。

 同会はもともと「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が呼びかけ、立ち上げた組織だという。現在、「慰安婦の真実国民運動」の代表は加瀬英明、幹事長が岡野俊昭、さらに常任幹事には松木國俊藤岡信勝の各氏が名を連ねている。彼らは全員、「つくる会」に属しており、同会の事務局も「つくる会」内に置かれており、事務局長も「つくる会」の事務局長が兼任という状態である。「慰安婦の真実国民運動」のサイトによれば、現在同会は「20団体が参加する協議会」であり、以下が加盟団体として挙げられている。

アジア自由民主連帯協議会 (ペマ・ギャルボ会長)
新しい歴史教科書をつくる会 (高池勝彦会長)
生き証人プロジェクト (代表不明)
英霊の名誉を守り顕彰する会 (佐藤和夫代表)
GAHT-US Corporation 歴史の真実を求める世界連合会 米国事務局(目良浩一会長)
GAHT Japan NPO法人歴史の真実を求める世界連合会 日本法人 (加瀬英明会長、目良浩一、藤井厳喜代表)
史実を世界に発信する会(加瀬英明代表、茂木弘道事務局長)
「真実の種」を育てる会(岡野俊昭運営委員長、加瀬英明高池勝彦杉田水脈ら顧問、藤岡信勝藤木俊一ら運営委員)
そよ風(涼風由喜子会長)
正しい歴史を伝える会(桂和子代表)
調布『史』の会 (松木國俊世話人
テキサス親父日本事務局(藤木俊一事務局長)
なでしこアクション(山本優美子代表)
日本近現代史研究会 (杉原誠四郎会長)
日本時事評論 (山本和敏社長)
捏造慰安婦問題を糺す日本有志の会(代表不明)
捏造日本軍「慰安婦」問題の解決をめざす北海道の会(澤田健一代表)
不当な日本批判を正す学者の会(田中英道会長、山下英次事務局長)
誇りある日本の会 (吉田明彦相談役)
論破プロジェクト(藤井実彦代表)

 「つくる会」や「日本時事評論」など少数を除いては、2010年頃以降に発足した団体が大部分だ。20という加盟団体数から大規模な連絡会のように見えるが、各地に支部を持つ組織は少なく、小規模の団体が多い。また、役員やメンバーが重複していることもある。

  台湾で問題を起こした藤井実彦氏が代表を務める「論破プロジェクト」は、2013年8月14日、藤井氏がYahoo!ニュースでみた「フランスのアングレーム漫画祭に韓国政府が50本の慰安婦漫画を展示するという暴挙に、経営者としての仕事を捨ててでも、対抗する必要があると考え」たことから発足させたという。漫画祭向けの「慰安婦」を否定する内容の漫画作品を出品、展示しようとしたものの、2014年1月に開催された漫画祭では主催者に展示ブースを撤去されるという顛末になった。

 この「論破プロジェクト」を後援していたのが幸福実現党だ。藤井氏は幸福の科学媒体『The Liberty Web』にも頻繁に登場して、「論破プロジェクト」の活動について語っており、漫画祭に出品した漫画の中にも幸福の科学のマスコット「トックマ君」が登場している。

台湾「慰安婦」像足蹴事件は、右派団体による「歴史戦」のひとつにすぎないの画像2アメリカ・カリフォルニア州ブエナパーク市に届いていた「論破プロジェクト」の漫画。右側の表紙には、「トックマ君」が描かれている。(撮影 山口智美)

 アングレーム漫画祭には、藤井氏に加え、Youtuberの「テキサス親父」ことトニー・マラーノ氏と「テキサス親父日本事務局」の藤木俊一事務局長も同行し、これ以降、マラーノ氏と藤木氏が「慰安婦」問題への関わりを深めることになった。2014年には、「論破プロジェクト」は「テキサス★ナイト」と題されたマラーノ氏の講演ツアーを日本で企画、主催している(その後も同ツアーは2015、2017年にも開催)。

 こうした様々な団体の連絡組織として設立された「慰安婦の真実国民運動」は、「慰安婦」像や碑の阻止や、海外での集会などの開催、ジュネーブやニューヨークで開かれる国連会議への代表団への派遣など、海外での活動に活発に取り組むようになっていった。

 「慰安婦の真実国民運動」は、ブログ、SNSや動画サイトなどを積極的に活用して、派手な運動を展開した。例えば、アングレーム漫画祭参加の前、2013年12月には、藤井、マラーノ、藤木の三氏でグレンデールの少女像を見学に行っており、その際にマラーノ氏が少女像の頭に人の顔が落書きされた紙袋を「慰安婦はブスだから」などといってかぶせ、笑い者にして写真を撮影、ネット配信し、それが韓国で炎上したことがある。藤木氏によれば、グレンデール市の少女像撤去の署名を集める目的であえて写真をネットに拡散し、韓国で炎上することを狙ったのだという。

 このように、藤井氏らはネットでの炎上を狙い、差別を煽り、結果として、国際的に批判を浴びる事態を何度も引き起こしてきた。台湾での事件も、こうした彼らの日常の活動の一環に過ぎない。そして、彼らの活動はネットのみならず、『産経新聞』や『夕刊フジ』、『月刊正論』などの産経系メディア、『WiLL』や『ジャパニズム』などの右派月刊誌や、「つくる会」や幸福の科学などの媒体を通しても伝えられてきた。「慰安婦の真実国民運動」の運動に関わってきた杉田水脈氏やマラーノ氏らは産経や夕刊フジに連載も持っており、日常的に彼らの活動ぶりがマスメディアに掲載され、それがネットで拡散されるという状況だった。

  2014年頃から、「慰安婦の真実国民運動」とは別の流れとして、主流の保守団体である「日本会議」も北米での「歴史戦」を展開している。特に日本会議東京地裁朝日新聞社を訴えた「朝日グレンデール訴訟」の全面支援を通して北米で原告を探した。また、ロサンゼルスやニューヨーク、トロントなどで集会などを開催し、在米日本人右派を着実に組織してきた。

 「慰安婦の真実国民運動」の関係者や関係団体で、日本会議など主流保守団体にも所属したり関係したりしているケースはある。「慰安婦」問題に関する主張はそう変わらず、時に行動を共にすることはあった。だが、「慰安婦の真実国民運動」関係者は、裁判闘争としてはアメリカでは「GAHT」によるグレンデール市を米国の裁判所で訴えた裁判、日本ではチャンネル桜系の運動体「頑張れ日本!全国行動委員会」などが主体となった「朝日新聞を糺す国民会議」の集団訴訟を支援しており、完全に日本会議と共闘しているという状況でもない。また、「慰安婦の真実国民運動」は外務省が十分「歴史戦」を戦っていないとして批判したり、2015年の「日韓合意」も批判するなど、日本会議系の主流保守より、政府や自民党を批判することが多かった。

 

国連での「歴史戦」

 日の右派は、左翼が国連を牛耳ってきたという認識を持っている。国連こそが「慰安婦=性奴隷」説を広め、日本政府に対して不当な勧告を出し続けたと理解しており、こうした状況を変えるためには、右派が国連に出ていかねばならないという認識を持っている。

 2014年7月、「慰安婦の真実国民運動」はジュネーブ国連自由権規約委員会に初めて国連派遣団を送った。山本優美子団長、細谷清事務局長(家族の絆を守る会FAVS、日本近現代史研究会)のもと、藤井実彦、トニー・マラーノ、藤木俊一、関野通夫(つくる会)、エドワーズ博美、仙波晃、大坪明子(そよ風)、GAHTの目良浩一夫妻という総勢十一人が団員だった。派遣団が日本に戻ると報告会を開催した。これ以降、「慰安婦の真実国民運動」の国連派遣運動が現在に至るまで続いている。

 その後も「慰安婦の真実国民運動」は、2015年7月、女子差別撤廃委員会の会期前作業部会(プレセッション)に代表団を派遣した際には20名が参加、さらに2016年2月、CEDAW第63回セッション(本セッション)への参加などと、ジュネーブでの国連会議への参加を重ねていった。2015年以降は、落選中だった杉田水脈氏が派遣団の一員として参加し、スピーチをするなど目立つ役割を果たした。(藤岡信勝編著『国連が世界に広めた「慰安婦=性奴隷」の嘘--ジュネーブ国連派遣団報告』(自由社2016年))直近では2018年8月に、人種差別撤廃委員会への派遣団を送っており、杉田水脈衆議院議員も同委員会には参加している。

 また、毎年3月にニューヨークで開催される国連女性の地位委員会(CSW)にも、「慰安婦の真実国民運動」関係者が参加するようになった。2015年3月、国連女性の地位委員会を「見学」参加し、現地での「GAHT」による記者会見などを行ったのが最初だ。その際、 「テキサス★ナイト in NYC」と題するイベントを開催し、藤井氏のほか、マラーノ、藤木、高橋史朗山本優美子、鈴木規正(ニューヨーク正論の会)、幸福の科学ニューヨーク支部代表の木村公宣の各氏らが登壇した。イベントのチラシには、ニューヨーク正論の会、日本まほろば支援局、正しい歴史認識を訴える会、論破プロジェクトの共同開催で、協賛がHappy Science USAと記載されている。

 この集会は、日系人会館での開催が予定されていたが、地元市民やCSW参加中の運動家らによる集会への抗議行動が行われ、会場が直前にイタリアンレストランに変更された。また、12日には藤井氏らが登壇して「ニューヨーク★ナイト」と題したイベントも開催されており、日系フリーペーパー『週刊NY生活』の同イベントの告知広告には「ハッピーサイエンス主催」と書かれていた。これらイベントの開催についても、幸福の科学の役割が大きなことがうかがえる。

 2016年には、「GAHT」や「なでしこアクション」が主催となり、NGOのパラレルイベントを二度CSWで開催した。このうち「慰安婦は性奴隷ではない」と題したイベントには杉田水脈氏、目良浩一氏、細谷清氏が登壇。細谷氏が「あなたたちには日本人と韓国人や中国人の区別は付かないだろうが、日本人は弱者をいたわる。韓国人は溝に落ちた犬を叩く文化」などという発言を行い、他の登壇者も「慰安婦」の性奴隷性を否定する発言などを相次いで行なった結果、会場から「恥をしれ!」という声が飛んだという。また、再びこの時期に「テキサス★ナイト in NYC実行委員会」と「慰安婦の真実国民運動」の共催による「テキサス★ナイト in NYC」も行われ、マラーノ、藤木、藤井、山本、目良、細谷の各氏らが登壇した。

 このほか、人種差別撤廃委員会など国連の委員会へのNGOレポートをたびたび提出したり、2017年の登録を目指して2016年にユネスコ「世界の記憶」への「通州事件チベット侵略」「慰安婦」の登録申請活動を行うなど、「慰安婦の真実国民運動」およびその参加団体は、国連活動に非常に力を入れ、歴史修正主義レイシズム、セクシズムに基づく主張を発信してきたのだ。そして日本に帰国すると、記者会見や報告会を開き、それが産経新聞などの右派メディアで報道されるというパターンを繰り返してきた。

 先月10月9日にも、「慰安婦の真実国民運動」主催で、参議院議員会館において「国連人種差別撤廃委員会(CERD)参加報告会」が行われた。だが、台湾での事件を起こした後だったにも関わらず、それへの言及はなかった。そして、集会での「慰安婦の真実国民運動」の主張を産経新聞が報道するということもまた繰り返された。

アメリカでの「慰安婦」像や碑への反対運動

 「慰安婦の真実国民運動」関係者らは北米での「慰安婦」の碑や像を巡る反対活動にも関わってきた。同会結成の直接のきっかけとなったのは2013年7月のグレンデール市での少女像設立だったが、2014年2月、GAHTの目良氏らがアメリカ連邦地裁にグレンデール市を提訴したことで右派は盛り上がり、裁判報告などの名目で、日米で何度も「慰安婦」否定論に基づく右派の集会を開催。アメリカでは、2014年7月、ロサンゼルス近郊で目良氏、藤岡氏によるGAHT裁判報告会が開かれ、同年12月にはサンフランシスコ、ロサンゼルスで山本氏、藤井氏らが講師を務め「慰安婦問題に終止符を!!」と題した講演会が開催されるなど、主にカリフォルニアやニューヨーク近郊で集会が行われてきた。

 2014年12月のカリフォルニアでの集会の主催はTrue History (Yoshi)と書かれていたが、これは幸福の科学サンフランシスコ支部(当時)の田口義明氏のことだ。サンフランシスコでは公共施設での開催だったこともあり、平和運動に関わる地元市民らが中心となって抗議行動を行った。こうした講演会の会場をおさえるなどの役割を幸福の科学支部が果たしていたことも確認されている(小山エミアメリカ『慰安婦』碑設置への攻撃」山口智美、能川元一、テッサ・モーリス–スズキ、小山エミ『海を渡る慰安婦問題』岩波書店2016年)。

  また在米日本人右派は、「慰安婦」像の設置に関して、市議会での公聴会パブリックコメントの場にも登場してきた。グレンデール市議会のほか、2015年、サンフランシスコで「慰安婦」像の新設に関する公聴会があった際には、GAHTの目良氏らや、幸福の科学の関係者も登場。目良氏が元「慰安婦」を眼の前にして罵倒し、カンポス市議から「恥を知れ」と言われた事件はその後広くネットに拡散された。ジョージア州ブルックヘイヴン市でも、少女像の除幕式の前日に開かれた市議会で、市民によるパブリックコメントの際に、マラーノ氏や幸福の科学アトランタ支部関係者らが登場して、少女像に反対し「慰安婦」否定論を展開する発言を行った(https://www.youtube.com/watch?v=4mX5mMcQtaU&t=1221s)。 この際、在アトランタ日本総領事館の大山智子領事も日本政府の立場について発言したことから、地元ブルックヘイヴンの市議によれば、日本政府が右派の仲間のように見えたという。

 このような経緯から浮かび上がるのが、海外での「慰安婦」問題をめぐる「歴史戦」への幸福の科学の深い関わりだ。台湾の事件の後、幸福の科学は「「慰安婦の真実国民運動」と幸福の科学は一切無関係です」と9月11日づけで声明を出している。だが「論破プロジェクト」や藤井氏との関係は否定していない。また、幸福の科学関係者が、海外での「歴史戦」活動に深く関わってきたことも、その中で「慰安婦の真実国民運動」関係者と協力しつつ動いてきたことも明白だ。

政治家や日本政府との関係

 2013年の設立以来、「慰安婦の真実国民運動」の関係者らは、国内外の様々な場で「慰安婦」否定論を主張し続けてきた。しかも、その主張には歴史修正主義レイシズム、セクシズムが色濃く反映されており、注目を集めるためにネットなどでの炎上狙いの方法を使ってきた。さらに、それが産経などの右派メディアにも報道され、拡散されるという連続だった。その積み重ねの行き着いた先が、台湾の「慰安婦」像足蹴事件だと言えるだろう。

 「慰安婦の真実国民運動」系の目立つ動きの背後で、日本政府や、日本の姉妹都市関係者、国会や地方議員らが、「慰安婦」像や碑への反対運動を展開していたことは見逃せない。むしろ、「慰安婦の真実国民運動」の激しい主張に比べたらまともな主張に見えてしまうという効果も発揮してしまっていたのではないか。

 維新の会や次世代の党選出の国会議員時代に、グレンデールを訪れ少女像撤去を要求し、国会でも「慰安婦」問題に関して質問するなどしていた杉田水脈衆議院議員は、2014年10月、「慰安婦問題とその根底にある報道の異常性」と題する「論文」で、アパグループの「真の現代史観」懸賞論文の大賞を受賞。朝日の「慰安婦」報道が大バッシングを受けていた時期だった。同年12月の衆院選で落選した後は、「慰安婦の真実国民運動」の派遣団の一員として国連に行くなどの活動を行い、産経などで連載を持ち、青林堂などから著書も出すなど、右派論壇でも活躍するようになる。対談書の中では、「慰安婦像を何個建ててもそこが爆破されるとなったら、もうそれ以上、建てようと思わない。建つたびに、一つ一つ爆破すればいい」と、テロを教唆するような発言をするなど、「慰安婦」問題に関して過激な問題発言を繰り返してきた(河添恵子杉田水脈『歴史戦はオンナの闘い』PHP研究所 p.141)。LGBTに関する論考が問題になった『新潮45』にも「慰安婦」問題に関する論考を複数回掲載している。こうした活動の結果、杉田氏は衆議院選で自民党からの中国ブロック比例単独候補となり、当選し、衆議院議員になったのだ。

 また、現在地方創生大臣をつとめている片山さつき参議院議員も、アングレーム漫画祭に関して藤木俊一氏と連絡を取り、藤木氏らの記者会見について「大使館もバックアップするように、伝えます」とブログで記すなどしており、YouTubeの「さつきチャンネル」でも、アングレーム漫画祭やジュネーブ国連人権委員会など「慰安婦」問題関連のテーマに関して、複数回、藤井氏や藤木氏を呼んで共に出演しており、近い関係ぶりがうかがわれる。さらに和田政宗参議院議員も、藤井氏や藤岡信勝氏と共著 『村山談話20年目の真実』(和田政宗、藤井実彦、藤岡信勝田沼隆志著 イースト・プレス2015年)を出すなど、自民党の一部議員らと「慰安婦の真実国民運動」の関係者は蜜月関係と言ってよい状況にある。

 2017年2月には、日本政府が米連邦最高裁にGAHT裁判を支援する意見書を提出。また、2015年に日本政府は一時期、ユネスコ「世界の記憶」への南京大虐殺文書の登録に反発し一時留保したが、2017年5月にも再度、審査方法の見直しを求めると共に、日本軍「慰安婦」問題の資料審査の推移を見守るとして再び一時留保した。さらに同年6月、ジョージア州ブルックヘイヴン市の「少女像」設置をめぐっては、在アトランタ総領事の篠塚隆氏が地元紙の取材に答え「慰安婦」否定論を展開したほか、地元議員によれば、在アトランタ日本総領事館は翌2018年3月、公園での桜祭りの際に像にカバーをしろと要求したという。サンフランシスコの「慰安婦」像に関しては、大阪市が前任の橋下、現在の吉村市長ともに、同じ主張の長文手紙を何度も出し続け、今年10月には姉妹都市関係を一方的に打ち切り、世界の著名メディアで報道されている。このように日本の政府や自治体の中には、右派運動と官民一体の動きを繰り広げたり、あるいは炎上狙いの右派の動きと区別がつかないような振る舞いをしているものもある状況なのだ

 もはや、台湾での事件を引き起こした「慰安婦の真実国民運動」系が突出しているとは言えず、もちろん藤井氏個人に限定された問題でもない。むしろそうしたものが日本社会の主流となってしまっているのでは、という気がしてならない。