リプロの視点から「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会での配布レジュメ

昨日、9月6日に文京区民センターで開催された「女性の健康の包括的支援法案」について考える集会に、発言者の一人として参加させていただきました。(主催団体の一つ、SOSHIRENのサイト掲載の集会案内文もご参照ください。)

そこでの私の発表レジュメ内容をこちらにポストしておきます。(制限時間10分のトークで、レジュメ枚数を1枚におさめようとしたことから、説明がないと意味がわからないところもあるかもしれませんが...)

                                                                                      • -

山口智美
「『女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法律案』と『女性の健康の包括的支援法』の関係」


1. 「女性が活躍できる社会環境の整備の総合的かつ集中的な推進に関する法案」(以下、「女性の活躍推進法案」と略)と「女性の健康の包括的支援法案」の関係は?
• 成長戦略の一環としての「女性の活躍」を支える法案
• 「対を成すもの。」(『公明新聞』6月19日)
• 「あわせて、女性の活躍推進のためには、女性の特性に応じた女性の健康の包括的支援が必要である。このため、与党からの提言等も踏まえつつ、所要の施策を総合的に講ずる。」 (「日本再興戦略 改訂2014」p.44 )

2. 「女性の活躍推進法案」をめぐる経緯
• 前回の国会で議員立法提出 (松野博一薗浦健太郎永岡桂子宮川典子藤井比早之、高木美智代、古屋範子、大口善紱 自民党4名と公明党3名の7名。)ジェンダーに敏感な視点で知られる議員はいない。(「女性の健康」法案は、男女共同参画への「バックラッシュ」や憲法改正論者として知られる高市早苗議員が積極的に推進。 )
• 次国会では政府が提出、現在厚生労働省で検討中と報道

3. 2つの法案に共通する問題点
• 前国会での議員提出の「女性の活躍推進法案」より (オリジナルのレジュメで下線を山口がひいた箇所はイタリックにしています)
(基本理念)第二条 女性が活躍できる社会環境の整備は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
 一 男女が、家族や地域社会の絆を大切にし、人生の各段階における生活の変化に応じて、それぞれその有する能力を最大限に発揮して充実した職業生活その他の社会生活を営むとともに、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動について協働することができるよう、職業生活その他の社会生活と家庭生活との両立が図られる社会を実現すること。  (二は略)
 三 少子化社会対策基本法(平成十五年法律第百三十三号)及び子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)の基本理念に配慮すること。
• 「女性の活躍推進法案」では、ワークライフバランス、女性活躍企業に対する助成金など。企業に対し、女性の管理職登用の数値目標や行動計画策定を義務付けるかが最大の論点→どれも男女共同参画社会基本法で取り組める範囲?
• 「女性の活躍推進法案」「女性の健康の包括的支援法案」ともに、「人生の各段階」や「ライフステージ」という考え方が共通。提示される「ライフステージ」とは異なる生き方の女性たちは?(産まない女性、トランス女性、レズビアン女性など)リプロ視点の欠落。 「包括的/切れ目ない支援」などの言葉の持つ意味とは?
• 両法案をつきあわせると、産んで育てて働き続け、家事、介護も担う女性像が浮かぶ。 固定的な性別役割分業の枠内での労働のあり方や健康への対策 ?
• 「性差」前提の法律?「女性の特性」、「心身の特性」という表現の危うさ 、「男女」二元論的枠組みの問題
o 8月31日院内集会での対馬氏発言 「心身の特性」とは「ホルモン特性」→社会・文化的「ジェンダー」の視点ではなく、ホルモン決定主義?
• 「日本再興戦略 改訂2014」では、「活躍」するエリート女性のために家事や介護を担う外国人家事労働者の導入を提言。外国人や移民女性の労働・人権問題や健康という視点はどこに?

4. なぜ、今、女性活躍と女性の健康についての法なのか?
憲法改正議論との関係 − 24条と「家族」をめぐる保守の議論。
男女共同参画社会基本法の無効化

5. アメリカ状況との関連:アメリカをモデルとすることの問題
• リプロをめぐる危機的な状況。”War on Women”
貧困層による医療アクセスの困難。→貧困、階層問題をどう考えるのか?エリート女性のための健康法や施策であってはならない。

レジュメのPDF版はこちらから



参考資料
自公の議員立法案で前回国会に提出された「女性活躍推進法」の概要、法案はこちら

「女性の健康の包括的支援法案」(PDF)
自民党 「女性の健康の包括的支援に向けてー<三つの提言>」

首相官邸ホームページ「日本再興戦略改訂2014」に関する情報

小田嶋隆氏「『女性差別広告』への抗議騒動史」の何が問題なのか?

コラムニストの小田嶋隆氏が、「「女性差別広告」への抗議騒動史」という記事をブログにアップした。そもそもの経緯は、小田嶋氏のツイッターでの「従軍いやん婦」発言にさかのぼる。その発言をめぐる一連の経緯はTogetter「小田嶋隆さんの”従軍いやん婦”発言をめぐるやりとり」参照。Twitterでの経緯から、小田嶋氏がこのブログ記事で言及している「フェミニズム運動にかかわっておられると思しき女性」というのは、私のことを指しているかと思われる。

ブログ記事としてアップし、追記まで加えておきながら、「以後、この問題については、議論しません」というのは、どうなのかとは思う。まあ一方で、私の側とすれば、絶版状態の本の文章をブログで批判するのもどうかと思っていたのだが、アップされたことで誰でも検証できる状態になったこともあり、批判をまとめるよい機会を与えていただいたということになる。小田嶋さん、ありがとうございました。

しかし、小田嶋氏は、コラムの文章全文をアップすれば、「ミソジニーバックラッシュのアンチフェミのセクシストのマッチョ」という疑いがおそらく晴れるであろうと思われた様子なのだが、なぜそんな認識になってしまっているのか不思議だ。アップされた記事も、「ミソジニーバックラッシュの…(以下略)」にしか見えないからだ。

小田嶋氏の「『女性差別広告』への抗議騒動史」 は「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」(1986年から「行動する女たちの会」に改称。96年解散。以下、「行動する会」と記述)による、メディア抗議行動の批判である。 私は博論で、この「行動する会」を扱った。それ以来、今に至るまで私がずっと追い続け、資料を集め、元会員への聴き取りを積み重ねてきたテーマだ。 *1 さらに、『まれに見るバカ女との闘い (別冊宝島Real (050))』は、2000年代前半から中盤にかけて出版が相次いだ、フェミニズムの「バックラッシュ」本の一冊である。私は『社会運動の戸惑い』本のための調査でフェミニズムへのバックラッシュを扱ったが、この「バカ女」シリーズについて、宝島社や関係者に聴き取りを行っている。そんなわけで、小田嶋氏が今回再掲した記事は、私の取り組んできたテーマの、ど真ん中をついていることになる。それもあり、今回反論を書く事にした。

*1:1996年、解散直前の時期に私は会に初めて行った。会員としての活動はほとんどできなかったが、会のニュースレター「行動する女」の最終号には会員からの解散に際してのメッセージの中に私の文章も載っている。そしてその頃、元会員の数名が始めていた、行動する会の記録集をつくるプロジェクトに参加した。その記録集は、1999年、『行動する女たちが拓いた道』として出版。私は、「第1章 マス・メディアの性差別を告発」の執筆グループの一員となり、年表作成にも参加。そのプロセスの参与観察と会員のインタビュ―に基づき博士論文を執筆。その後もずっとフォローは続け、昨年から、行動する会の過去のニュース等の復刻版をつくるプロジェクトに関わり、再び行動する会の元会員らの聴き取りを始めたところである。

続きを読む

危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

今年の1月15日に発行された、メルマガ“α-Synodos" vol.140「結婚ってなんだろう」特集号に掲載された表題の文章、メルマガ発行後数ヶ月たってそろそろいいのではということで、ブログに掲載することにしました。「婚学」に加え、「親学」についても扱っている文章です。


危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

━━━━━━━━━

「ステキな大人」になるために恋愛、結婚、家庭は必要不可欠!?
九州大学の授業として行われている「婚学」。その問題点を鋭く分析する。

━━━━━━━━━


◇はじめに

「婚学」とは、九州大学の1年生対象の「少人数セミナー」として開講されている授業である。「結婚、恋愛、出産、子育てにフォーカスし、日本ではじめての『婚学』授業」と銘打たれ、商標登録されている。*1 2012年4月から開講されており、当初の20人の定員に100人の履修希望者が殺到するという人気授業だという。担当教員は九州大学大学院の助教で、農学を専門とする佐藤剛史氏。食育に関する一般向けの著書を多く出版し、講演やマスコミ出演も多数だという。だが、経歴を見る限り、ジェンダー論、フェミニズム、家族社会学文化人類学など、「結婚」に関して研究する際に通常必要とされる分野の背景は全くない。

この「婚学」が昨年11月、NHKで放送された「加速する“未婚社会”どう備える」という特集で扱われた。*2 それをきっかけに、九州大学シラバスの記載や、佐藤氏のブログ、Facebookなどに書かれた「婚学」の授業内容に関して、Twitterなどで批判が殺到し、Togetterでも複数のまとめが作られるなど、「炎上」した。Twitter等では、2012年の講座開始以降、「婚学」がメディア報道されるたびに、批判は出ていたようだが、昨年11月以降の反響はとくに大きなものだった。

私は一昨年10月、斉藤正美、荻上チキの2人の共著者とともに、『社会運動の戸惑い―フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)という本を出版した。2000年代前半の「男女共同参画」や「ジェンダーフリー」をめぐる、フェミニズム保守系フェミニズム運動の係争についてまとめたものだった。この本の中で抱き続けたのが、「男女共同参画とは何なのか、誰のための、何のためのものなのか」という問いだったように思う。

『社会運動の戸惑い』のための調査は、2011年段階でほぼ終えていた。そして、2012年の年末に、民主党政権は崩れ、安倍晋三氏の首相返り咲きが起きた。2000年代前半の「バックラッシュ」の動きを先導した1人であった、安倍氏が首相の座についたことで、「男女共同参画」をめぐる状況も当然ながら、相当に変化が起きることにもなった。

本稿では、九州大学の「婚学」の問題をまず議論した後、「婚学」と「男女共同参画」と「少子化対策」の関連について検討する。さらに、安倍政権において、おそらく首相肝いりで「男女共同参画会議」のメンバーになったであろう、高橋史朗明星大学教授が中心となっている「親学」と「婚学」との類似性、及び安倍政権下の「男女共同参画」の方向性との親和性の高さについて述べていきたい。

なお、本稿では九州大学の「婚学」を特に取り上げるが、これ以外にも、「恋愛、結婚、異性とのコミュニケーションについて」学ぶという明治大学での心理学者諸富祥彦氏による「婚育」(講座名は「こころの科学」)、早稲田大学政治学者森川友義氏による「恋愛学」など類似の講座が他大学にも存在する。どの授業も、学生のコミュニケーション能力の欠落により恋愛や結婚につながらないという認識、「結婚のすばらしさ」を説くという姿勢などは、共通したものとなっている。どれも人気講座としてマスコミで注目を集めており、同様の講座が他大学等にも開講されている可能性もある中で、本稿における指摘は九州大学の「婚学」に限定された問題ではなく、より広がりをもつであろうことを記しておきたい。

*1:九州大学の「婚学」のほかに、新潟県で「婚学カレッジ」という団体があり、セミナー、講演、イベント等を開催しているようだが、九州大学のものとは直接的に関係はないと思われる。http://ameblo.jp/gata-con/entry-11460395778.html

*2:授業の履修条件として「1.授業への積極的な参加。2. facebookの使用。3. マスコミの取材への協力。4. 土日を利用したフィールドワークへの参加。」の4点が挙げられている。さらにシラバスにも「マスコミに取り上げられた実績」として、取材をうけた媒体や番組名を列記しており、マスコミ取材が佐藤氏にとって、重要な位置づけとなっていることが伺える。

続きを読む

*[男女共同参画] 危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

今年の1月15日に発行された、メルマガ“α-Synodos" vol.140「結婚ってなんだろう」特集号に掲載された表題の文章、メルマガ発行後数ヶ月たってそろそろいいのではということで、ブログに掲載することにしました。「婚学」に加え、「親学」についても扱っている文章です。


危惧される「婚学」のゆくえ―安倍政権下の男女共同参画との親和性

━━━━━━━━━

「ステキな大人」になるために恋愛、結婚、家庭は必要不可欠!?
九州大学の授業として行われている「婚学」。その問題点を鋭く分析する。

━━━━━━━━━


◇はじめに

「婚学」とは、九州大学の1年生対象の「少人数セミナー」として開講されている授業である。「結婚、恋愛、出産、子育てにフォーカスし、日本ではじめての『婚学』授業」と銘打たれ、商標登録されている。*1 2012年4月から開講されており、当初の20人の定員に100人の履修希望者が殺到するという人気授業だという。担当教員は九州大学大学院の助教で、農学を専門とする佐藤剛史氏。食育に関する一般向けの著書を多く出版し、講演やマスコミ出演も多数だという。だが、経歴を見る限り、ジェンダー論、フェミニズム、家族社会学文化人類学など、「結婚」に関して研究する際に通常必要とされる分野の背景は全くない。

この「婚学」が昨年11月、NHKで放送された「加速する“未婚社会”どう備える」という特集で扱われた。*2 それをきっかけに、九州大学シラバスの記載や、佐藤氏のブログ、Facebookなどに書かれた「婚学」の授業内容に関して、Twitterなどで批判が殺到し、Togetterでも複数のまとめが作られるなど、「炎上」した。Twitter等では、2012年の講座開始以降、「婚学」がメディア報道されるたびに、批判は出ていたようだが、昨年11月以降の反響はとくに大きなものだった。

私は一昨年10月、斉藤正美、荻上チキの2人の共著者とともに、『社会運動の戸惑い―フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)という本を出版した。2000年代前半の「男女共同参画」や「ジェンダーフリー」をめぐる、フェミニズム保守系フェミニズム運動の係争についてまとめたものだった。この本の中で抱き続けたのが、「男女共同参画とは何なのか、誰のための、何のためのものなのか」という問いだったように思う。

『社会運動の戸惑い』のための調査は、2011年段階でほぼ終えていた。そして、2012年の年末に、民主党政権は崩れ、安倍晋三氏の首相返り咲きが起きた。2000年代前半の「バックラッシュ」の動きを先導した1人であった、安倍氏が首相の座についたことで、「男女共同参画」をめぐる状況も当然ながら、相当に変化が起きることにもなった。

本稿では、九州大学の「婚学」の問題をまず議論した後、「婚学」と「男女共同参画」と「少子化対策」の関連について検討する。さらに、安倍政権において、おそらく首相肝いりで「男女共同参画会議」のメンバーになったであろう、高橋史朗明星大学教授が中心となっている「親学」と「婚学」との類似性、及び安倍政権下の「男女共同参画」の方向性との親和性の高さについて述べていきたい。

なお、本稿では九州大学の「婚学」を特に取り上げるが、これ以外にも、「恋愛、結婚、異性とのコミュニケーションについて」学ぶという明治大学での心理学者諸富祥彦氏による「婚育」(講座名は「こころの科学」)、早稲田大学政治学者森川友義氏による「恋愛学」など類似の講座が他大学にも存在する。どの授業も、学生のコミュニケーション能力の欠落により恋愛や結婚につながらないという認識、「結婚のすばらしさ」を説くという姿勢などは、共通したものとなっている。どれも人気講座としてマスコミで注目を集めており、同様の講座が他大学等にも開講されている可能性もある中で、本稿における指摘は九州大学の「婚学」に限定された問題ではなく、より広がりをもつであろうことを記しておきたい。

*1:九州大学の「婚学」のほかに、新潟県で「婚学カレッジ」という団体があり、セミナー、講演、イベント等を開催しているようだが、九州大学のものとは直接的に関係はないと思われる。http://ameblo.jp/gata-con/entry-11460395778.html

*2:授業の履修条件として「1.授業への積極的な参加。2. facebookの使用。3. マスコミの取材への協力。4. 土日を利用したフィールドワークへの参加。」の4点が挙げられている。さらにシラバスにも「マスコミに取り上げられた実績」として、取材をうけた媒体や番組名を列記しており、マスコミ取材が佐藤氏にとって、重要な位置づけとなっていることが伺える。

続きを読む

*[男女共同参画]性差別の撤廃が男女共同参画の目的といえない男女共同参画局:Facebookでのやりとりの続き

前回のエントリで、男女共同参画局とのFacebookでのやりとりを紹介した。斉藤さんや私の提示した「男女共同参画局や担当大臣は性差別を撤廃を最重要と考え、それにむけての取り組みを重点的に進めるのか」という問いについては、返事がないままになっていた。

最初はこのFacebookページで、メッセージへの対応をしていた男女共同参画局。斉藤さんや私のコメントにも対応していたことからもわかるし、その他の人たちのメッセージへの対応もあった。だが、その後、どうやらポリシーを変えてしまったようだ。

内閣府男女共同参画局Facebookページについて

なお、投稿への返信、メッセージへの個別の対応はいたしませんので、あらかじめご了承ください。

Facebookページでは、運営方針を定めています。この運営方針は、事前に告知なく変更することもありますのでご了承ください。

とのことである。
この説明の最初に、「Facebookページは企業や団体が情報発信や利用者との交流を図ることができるソーシャルユーテリティサイトです。」と書かれているが、どうやら男女共同参画局は「利用者との交流を図る」ことはやめてしまったらしい。

そこで、私が男女共同参画局のポストに対して以下のようなコメントを書き、それに斉藤正美さんも続けてコメントを書いた。(該当FBページはこちら。)

山口智美:いつの間にか、FBページの運営方針が変わり、コメント、メッセージへの対応はされなくなったのですね。最初のうちはされていたのに、この変更は大変残念です。インタラクティブなページ運営をされることを期待していたのですが。http://www.gender.go.jp/sns/facebook.html

斉藤正美:わたしたちって、「いいね」だけ期待されているのかしら?  それだったら、HPと何が違うのでしょうか。
広報紙やチラシ、HPとは違うfacebookというSNSタイプに移行されたのに、そのリアルタイムでの双方向性という特徴を自らなくすのであれば、facebookで発信する意味はどこにあるのでしょうか。

この後で、遠山日出也さんも、回答を求めるコメントを残している。さらに、斉藤さんと山口のコメントについて、「何のための男女共同参画行政なのか」「根本に、性差別の撤廃が座っているのか」という基本的な問いであり、国会で質問されてもおかしくない重要性を持っていると思うのです。」と述べ、投稿への個別対応はしないという方針を改めるべきだと書かれている。(遠山さんコメントの全文については、FBページを参照。)

遠山さんが書かれた「国会で質問されてもおかしくない重要性」という言葉にははっとさせられた。まったく同感である。日本政府は「女性差別撤廃条約」を批准しており、さらには「男女共同参画社会基本法」には「性別による差別的取扱いを受けないこと」と書かれている。にもかかわらず、「性差別を撤廃する」ことが「男女共同参画」の目的である、という一言を避け、Facebookへのコメント対応までやめてしまうというのはどうしたことなのだろうか。

何のための男女共同参画なのか?:男女共同参画局とのFacebookでのやりとり

男女共同参画局が、公式Facebookページを先月末に開設した。
ものすごく充実した内容を期待していたわけではもちろんないが、情報収集はできるかと思って、早速私もフォローしてみた。

そして、3月8日、国際女性デーについての、以下の男女共同参画局によるポストを読んだ(FBが見られる方用リンクはこちら。)

今日、3月8日は国連が定める「国際女性の日」です。

 国連では、1975年より3月8日を「国際女性の日」と定め、「女性たちが、平等、安全、開発、組織への参加のための努力により、どこまで可能性を広げてきたかを確認すると同時に、今後のさらなる前進に向けて話し合う場として設けられた記念日」としています。

 この大切な日に寄せて、森まさこ内閣府特命担当大臣男女共同参画)が、メッセージを出しました。

 森大臣のメッセージは、下記URLよりご覧いただけます。
http://www.gender.go.jp/movement/20130308a.html

私はこの森大臣のメッセージにかなりびっくりし、大きな疑問をもった。そこで、同日、以下のコメントをつけてみた。

山口智美: 森まさこ大臣のメッセージ、男女共同参画を推進するのは「日本経済の再生のみならず、東日本大震災からの復興、国際的な日本の貢献など、様々な課題への対応」、さらに「日本の繁栄に必要な人材の確保」など、女性を労働力としてしか考えていないかのようです。そもそもの「国際女性の日」の意味とは全く別方向であり、性差別の撤廃や女性の人権という根本的な目的はどこへいってしまったのかと、衝撃を覚えました。このようなメッセージを、大臣、そして男女共同参画局が推進しておられることにも、根本的な問題を感じずにはいられません。

この後、男女共同参画局からのレスがないまま3日がすぎた。そして、日本時間の3月11日朝、斉藤正美(id:discour)さんが以下のようなコメントをつけた。

斉藤正美: 男女共同参画の推進に、性差別の撤廃や女性の人権が入っていますよ、という力強いコメントをご担当者様からいただけるととても安心します。よろしくお願いします。

私も続けて催促ポスト。

山口智美:  私も何らかのコメントをご担当者様からいただけるかと思っておりました。ぜひよろしくお願いいたします。

すると、3月11日夕方、男女共同参画局から以下の返答があった。

Yamaguchiさん、斉藤さん、コメント頂きありがとうございます。
政府では、「政策方針過程への女性の参画の拡大」、「女性に対する暴力の根絶」など、15の重点分野を掲げ、第三次男女共同参画基本計画(http://www.gender.go.jp/kihon-keikaku/3rd/index.html)に基づき、男女の人権の尊重という観点から、男女共同参画社会の実現に向けた取り組みを進めています。
この場を通じて、様々な取り組みをご紹介して参ります。
今後ともよろしくお願い致します。

だが私は、このいかにも官僚的な、ある意味予想通りだった返事に満足できず、再度の質問をしてみた。これが日本時間の3月12日火曜日である。

山口智美:ご担当者様、お返事を有り難うございました。お時間をおとりいただきお返事をくださったことに感謝申し上げる反面、第三次基本計画に基づき取り組まれるというのは当然のことであるのでしょうし、とても行政による模範解答的な、ポイントをずらされたお返事であることに、残念さも感じます。そこで、再度お伺いさせてください。まず第一に、森大臣のメッセージが、女性を国のための労働力としてしか捉えていないように思われる問題については、そうではないと考えてもよろしいのでしょうか。第二に、性差別の撤廃について、女性差別撤廃条約を批准している日本政府としては当然ながら真っ先に考え、政策の柱におくべきことかと考えておりますが、その点、男女共同参画局としても、また担当大臣としても、最重要と考え、性差別を撤廃のむけての取り組みを重点的に進められるという理解でよろしいでしょうか。「男女共同参画」とは、「日本経済」や「日本の繁栄」のために女性を労働力として活用することを優先することではないと考える私としては、意図に疑問を感じてしまった大臣のメッセージでした。そのあたりをわかりやすくご解説いただけると助かります。よろしくお願いいたします。

さらに、斉藤さんの質問も、同日ポストされた。

斉藤正美: ご担当者さま、お返事ありがとうございました。
森まさこ大臣のお言葉の中に、「強い経済」「日本経済の再生」「日本の繁栄」などが繰り返し出てきておりますために、「女性活躍」「男女共同参画」という名のもとに女性を日本の繁栄のための労働力として活用するというメッセージとも受け止められかねないことを危惧しました。その歯止めとしても、「性差別をなくす」というベクトルの政策は不可欠のものと存じます。
リンクとしてあげてくださった基本計画の「基本的な方針」でめざすこととして挙げられているのは、要するに、1)性別役割分担意識をなくす、2)男女の人権尊重、3)多様性と活力ある社会、4)国際的な評価を得られること、の4点にまとめられるかと思われます。
これらの施策を根拠づけているはずの男女共同参画社会基本法では、第3条に、「性別による差別的取扱いを受けないこと」という条文が入っています。また、そうした差別的扱いを含めた「男女間の格差を改善するため」に「積極的改善措置」をとることができると明文化されています。しかしながら、こうした根拠法であるはずの基本法の条文「性別による差別的取り扱いを受けないこと」を実質化することが、基本的な方針から抜け落ちているように見えるのですが、この点、どうなのでしょうか。教えていただければ幸いです。よろしくお願いします。

日本時間の3月15日現在、これらの質問への回答は男女共同参画局のFB担当者からはきていない。ちなみに、上記の質問をして以降、男女共同参画局は2つの新たな記事をポストしている。

まあ、男女共同参画局FBページの中の人にとってみたら、なんという面倒くさい人たちがコメントで粘着してきたのか、という気分だろうとは思う。官僚的なレスも、おそらく部署で相談の上出したものなのだろうし、その面倒をかけていることには少々悪いなという気もしないわけではない。でもやはり、政府機関として、大臣の挨拶に関する質問が一般市民からでて、それに答えずスルーというのはどうなのかと思う。

そして、この質問がスルーされているのはなぜかを考えざるをえない。スルーされている質問の内容というのは、すなわち、男女共同参画の目的は「性差別をなくす」ことではないのかを問うているからだ。男女共同参画局は、女性差別撤廃条約にも、男女共同参画社会基本法にも書かれている、「性差別をなくす」ということを、男女共同参画の目的だと言えないのだろうか。そして実際のところ、森大臣の挨拶文からは、むしろ「男女共同参画」とは「日本経済の再生」「日本の繁栄」などのために女性を労働力として活用することが第一義的な目的だ、というメッセージが強く伺えてしまう状況だ。

この現状には、危機感を感じざるをえない。今だからこそ、「何のための男女共同参画なのか」を、もう一度、根本から問い直していく必要があるのではないか。

『社会運動の戸惑い』読書会@関西学院大学(12月16日)

金明秀さんと山田真裕さんのご尽力で、関西学院大学にて12月16日に、『社会運動の戸惑い』読書会を開いていただけることになりました。著者の斉藤正美と私も参加させていただきます。楽しみです。

日時:12月16日(日)2:30-5:00pm
場所:関西学院大学社会学部棟3階セミナールーム
書評コメント 山田真裕さん(関西学院大学法学部)、金明秀さん(関西学院大学社会学部)
レスポンス 斉藤正美(富山大学)、山口智美モンタナ州立大学社会学・人類学部)
フロア含めた自由討議

詳細は近日中に、関西学院大学先端社会研究所のサイトにも掲載予定です。
また、「フェミニズムの歴史と理論」サイト内の『社会運動の戸惑い』特設ページにおいても掲載していきます。

今後も、読書会などの情報がはいりましたら、掲載していけたらと思っています。