『We』上野千鶴子インタビュー中のフェミニズム運動史解釈について


macskaさんが、Weの上野千鶴子インタビューについてのエントリーをたてていた。非常に重要な論点が提示されたエントリーだと思う。いい機会なので、macskaさんが触れていない、日本のフェミニズム運動がらみのことについて、3点記しておきたい。


1)上野さんは、リブに行かなかった理由として、「東京と京都という地理的な距離の問題があったことが大きいけど」と述べているが、この言い方では、まるでリブが東京にしかなかったか、あるいは関西にはなかったのような印象を与えてしまう。だが、上野さんご自身がインタビュー内で言及している『資料日本ウーマンリブ史』をみれば明らかなように、リブは東京のみならず、全国的に発生していた動きである。関西でも「関西リブ連絡会議」などが活発に活動していた。上野さん、関西系リブの方々からこの点は指摘されてきているはずだろうに、なぜまた繰り返すのだろう。


ちなみに、『資料日本ウーマンリブ史』は3巻もので、当時のリブ団体の資料を掲載してあるのだが、「年代別、運動の種類別、地域別」という3つの分類を組み合わせてつくられている。編者のひとり、三木草子さんによれば、あえて「地域別」も組み入れたところに、リブが東京中心などではなく、各地で起きていた運動ということを表す目的があったという。


2)「田中美津が75年に新宿リブセンターを解散するときに」と上野さんは言っているが、事実関係が違う。リブセン(リブ新宿センター)の解散は77年であり、田中美津さんが75年にメキシコに行ってからも、2年間活動を続けている。また、この表現では、まるで田中さんが一人でリブセンの解散を決めたかのように聞こえるが、当時のリブセン運営メンバーが皆で「休館」(実質上の解散ではあったが)を決めたはずだ。私はリブセンの「休館のごあいさつ」という文のコピーを持っているが、それは「運営メンバー一同」が書いたものだ。


3)日本にフェミニストの全国組織はない、と上野さんは言う。たしかにアメリカのNOWに相当するようなスケールの、第二波フェミニズムからはじまった全国組織はない。日本の(とくに第2波系)フェミニストたちが、トップダウンの構造を作らない、ゆるやかなネットワーク型を志向しているという指摘は、同感である。
だが、第二波契機の団体ではないながらも、例えば『ふぇみん』の出版元でもある婦人民主クラブは各地に支部をもっているし、フェミニストの全国組織といえるのではないか。「フェミニスト」といえるかどうか賛否がわかれるところだろうが、「女性運動体」ということでいえば、社民党系の「日本婦人会議」や、共産党系の「新日本婦人の会」などは全国組織だろうし。


最後に全体的な印象。昨今のバックラッシュもあるから、フェミニズムを守りたい、高く評価したい、という気持ちはわかる。だが、だからといって「日本人中産階級フェミニズム」が中心なのは仕方ないのだと開き直り、「マイノリティフェミニズム」からの批判を「おお、出てきた出てきた」などと人ごとのように言うのはあまりにおかしい。(例えばアメリカという環境では、「エスニックマイノリティのフェミニスト」である私が、「白人中産階級フェミニスト」に何らかの批判をして、それに対して「おお、出てきた出てきた」などと言われたら腹がたつだろうし、その人の思想に大いなる疑念をもってしまうだろう。)そして、macskaさんとの議論の主題だったはずの、セクシュアルマイノリティに関しては、このインタビューでは存在しないかのように扱われている。様々な差異の問題に正面からむきあわず、守りにはいっているような印象が残った。


参考:『資料日本ウーマンリブ史(全3巻)』

ISBN:4879749214
ISBN:4879749338
ISBN:4879749559