雑誌『DAYS JAPAN』最終号の感想
雑誌『DAYS JAPAN』の性暴力事件報道を受け、その検証を行うとした『DAYS JAPAN』最終号が発売された。
内容がないどころか、広河氏の言い分垂れ流しの第一部と、本来の事実の調査と検証という目的から目を逸らさせるために存在しているかのような第二部で、全体としてはなんだったんだこれは、というどうしようも無い内容だったと思う。
こうしたデイズ側の「検証」の背景にそもそも問題があったことは、発足したばかりの「DAYS元スタッフの会」の声明に書かれている、「会社に不利益なものを載せないのは当然である」という同社代表取締役の発言が象徴していると言えるだろう。
この検証号への感想をいくつかツイートしたので、記録もかねて以下、ツイートを貼り付けておく。
デイズジャパン検証号だが、「検証」とは名ばかりで、広河氏の言い分を垂れ流した後に、検証委員会によるの感想文を載せている状態。「検証」というのは被害者証言を丁寧に聞き取ることから始まるべきではないのかと思うのだが、まさか広河氏の言い分オンリーとは唖然。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月20日
細かいところはまたあとで書きたいと思っているが、デイズジャパン検証号の「検証」、被害者の言い分が皆無のまま、検証委員会が被害者はこう思っていたのではないか、と想像で書いてしまっている部分がかなり多く、これだけでアウトと思った。被害者聞き取りがまだの状態でこれはない。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月20日
デイズジャパン検証委員会、弁護士が複数いるのに、全く尋問した形跡が見えない。広河氏の言い分垂れ流しと、検証委員会の感想とだけで、やりとりした様子がない。広河氏には対面で聞き取りが行われたのか、それはいつなのか、誰がその場にいたのか、広河氏の弁護士は同席したのかなど一切わからない。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月20日
デイズジャパンの「検証」記事、もう一つ不思議なのは、自社の役員に関して、性暴力やパワハラが続き、隠蔽されたことへの責任の検証もスルーなこと。自社役員ならすぐ聞き取りできそうなものだが、それもまだやってないのだろうか。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月20日
デイズジャパン検証号だが、第一部の「広河氏面談調査報告及び考察」での「考察」は、検証委員会内部での意見交換を経た上で行われておらず、「調査担当者の考察」だと書かれている。だがこの「調査担当者」とは一体誰なのかが書かれておらず、一体誰の「考察」なのかが謎のままだ。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパンの広河氏面談部分は、Q1, Q2…といかにも「調査担当者」が質問をしたかのように一見なっているが、質問形式の文になっておらず「Q5 男と女の関係(男女対等論)」とか質問として謎すぎるし、単に広河氏が語ったものを、調査担当者が後からテーマ分類してるだけではという気がするのだが
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
まず最初に広河氏の語りありきで、それに「調査担当者」が「考察」なる感想文(としか言いようがないクオリティ)を付け加えたもののように見える。尋問が一切書かれてないし。だとしたら、アジェンダを全て広河氏側が設定しているということであり、「検証」する上で最悪なのではないか。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
最も重要で、かつ先にやらねばならない、デイズでの被害事実の調査を全くすっ飛ばして、広河氏の語りとそれへのコメント、及び問題を拡散するだけの第二部があるだけですからね。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号の第二部だが、本来せねばならないデイズにおける被害の事実を調査するという検証の目的から外れて、テーマを無駄に拡散させているだけだと思った。情報もない中でコメントしてる人もデイズの話がまともにできるはずもなく、無関係なことを語っている人が多い。ページ埋めただけ?
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
あと、最後になぜか掲載されている、Getty Imagesから買ってると思われる#MeToo関連のデモ写真だが、載ってるのは欧米がほとんどで、ほか日本と韓国の写真だけ。デイズジャパンってこんな欧米偏重の雑誌だったんでしょうかね。(私は購読してなかったからよく知らないのだが。)
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号の「調査担当者」、p.26で、あれだけ批判を浴びた土井敏邦氏の広河氏についてのコラムを、鋭い素晴らしい指摘かのように紹介している箇所があり唖然。URLまでつけて参考にすべき考察として紹介してるのはいかがなものなのか。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号の第二部「広河氏による救援活動にかかわってきた諸団体の動向」には「広河氏による性暴力の報道はこれらの団体にも衝撃を与え、役職からの解任や性暴力を非難する声明の発表が相次いだ」と書かれているが、紹介された6団体のうち解任1団体、アンケート調査中が1団体にすぎない
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
この事件が関係ない時に広河氏が退任したり、今活動を停止しているとかいう団体も紹介されているのだが、何のためにこの団体紹介が行われているのか意味不明の状態。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号の第二部だが、肝心な広河氏の性暴力やパワハラについての事実の調査や検証が一切なく、被害者の言葉も出てこない中で、「識者」として出てる人たちのコメントが上滑りしており、肝心な広河氏の暴力や、デイズの隠蔽体質問題から逆に目を逸らさせる効果を発揮しているように思う。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号の第二部は、林美子さん責任編集となっているが、肩書きとして「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)代表世話人」が使われており、第二部の最後の林さんの文章も、実質WiMNの活動宣伝的な内容で、団体として関与した印象を与える。WiMNの会員はこれ了承してたのだろうか。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
デイズジャパン検証号でインタビューされた人たちは「検証」なるものがこんな悲惨な状態になることを全く予想できなかったんだろうか。第二部で話を拡散させすぎたことと、第一部での広河氏サイドのストーリー垂れ流しとの相乗効果で、事実の検証とはかけ離れ、マイナス効果が増幅されたように思う。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
WiMNの設立趣意書は「声なき声をすくい上げ、社会に伝える。」から始まっており、設立の経緯もメディアで働く女性のセクハラ被害告発に端を発したと理解しており被害者の立場に立って動く団体だと思ってたのだが、それと今回のデイズ検証号はずれていないだろうか。会員の方々はどう思っているのかな
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
「DAYS元スタッフの会」発足声明 https://t.co/r4Te4dJWXU 声明によれば、検証に応じてなされた証言について「会社に不利益になるものを載せないのは当然である」とのデイズの代表取締役の回答があり、このため元スタッフ数名は調査への回答を拒否したという。これではまともな「検証」は無理だな。
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月21日
そう、私がDAYS JAPAN最終号でもう一つ大きな違和感を感じたのが、第二部でコメントをしている人たちの写真でした。中には笑顔で写っている人たちもいました。責任編集者も笑顔の写真です。これだけ被害者の声が消されている中で、この人たちの写真が載ってることへのなんともいえない違和感が…
— 山口智美 (@yamtom) 2019年3月24日
在アトランタ日本国総領事館からのブルックヘイヴン市「少女像」に関する質問状への回答
Web世界に、アトランタ近郊のブルックヘイヴン市の「慰安婦」少女像に関する記事を掲載していただきました。
5月に、ブルックヘイヴンを訪れ取材をした内容に基づいたものです。記事内でも紹介しましたが、この取材内容に関連して、在アトランタ日本総領事館に書面で質問を送付したところ、これに対する回答が中村温主席領事から6月11日に届きました。いわゆる「ゼロ回答」と言える内容ではありますが、以下に全文紹介しておきます。
以下、私の質問部分が書かれた後、囲みになっている部分が総領事館からの回答、ということになります。
1 Reporter Newspapers紙における2017年6月23日付の篠塚総領事のインタビュー記事については、私からの問い合わせ電話にお答えくださった中村様曰く、正確な報道ではなかったというご認識のようでしたが、具体的にどこが正確ではなかったとご認識されているのでしょうか。
(回答)インタビュー中にpaid prostituteという表現が用いられていないのにもかかわらずそのような書き方をしていることを正確でないと申し上げた次第です。
また、このインタビューの中で篠塚総領事は以下のようにご発言されています。
"Maybe you know that in Asian culture, in some countries, we have girls who decide to go to take this job to help their family."
この中で、1) "girls"という言葉を使っておられますが、「慰安婦」は未成年だったというご認識ですか? 2) "this job"とは何の仕事を具体的にさしておられたのでしょうか。
(回答) 取材中の個別のやりとりについてのコメントは差し控えたいと存じます。
2 アトランタのCenter for Civil and Human Rights(公民権・人権センター)での「慰安婦」少女像設置計画について、建設の阻止に向けて日本総領事館が説明及び働きかけを行ったと地元メディアや、韓国系メディア、また産経新聞など日本の新聞でも報道されています。具体的に誰にどのようなご説明、及び働きかけをされたのでしょうか。篠塚総領事は、少女像が地元経済に影響を与えると説明をされたとも報道されていますが、それが本当なら、どのように少女像が地元経済に影響を与えると考えておられるのでしょうか。
3 ブルックヘイヴン市の「慰安婦」少女像設立に関しては、地元メディアや産経新聞などにおいて、日本総領事館が反対したと報道されていますが、市に対してどのような説明及び働きかけを行われたのでしょうか。また、ブルックヘイヴン市の少女像設立に関して、市議会のパブリックコメントの時間に貴総領事館の大山智子領事がご出席され、ご発言されていました。領事があのような場でご発言されるというのは全米のそのほかの土地でも前例がなく、大変珍しいことかと思われますが、なぜあえてパブリックコメントの場に出ていかれたのでしょうか。
4 ブルックヘイヴン市のブラックバーン公園で今年3月に開かれた桜祭りには、例年はご出席されてこられた総領事はご欠席だったとのことですが、なぜでしょうか。また総領事館として、桜祭り最中に公園の「慰安婦」少女像にカバーをすることを市に対して要求されたと聞きましたが、本当でしょうか。本当だとしたら、なぜカバーが必要だと考えられたのでしょうか。
上記2から4の御質問について、とりまとめ回答申し上げます。
(回答)総領事館の活動に関するコメントは差し控えさせていただきたいと存じます。
5 ブルックヘイヴン市のブラックバーン公園に植えられている桜の木は、日本政府または総領事館から寄贈されたものなのでしょうか?
(回答)日本政府又は総領事館による寄贈ではないと承知しております。
6 ブルックヘイヴン市の「慰安婦」少女像について、今後、撤去などの要求もしくは働きかけをされていく予定はありますか。あるとしたら、どのように働きかけるご予定でしょうか。また、今後、管轄地域内で新たに「慰安婦」像や碑設置の計画が出てきた場合、どのようにご対応されるご予定ですか。
7 貴総領事館にとって、「慰安婦」の像や碑を建てさせないことや、撤去させることは、最重要課題の一つとも言えるほどに重視されているご活動らしいという認識を市民の方々から伺いましたが、そうなのでしょうか。また、「慰安婦」像をめぐる総領事の動きについては、個人的なお思いからのものなのか、それとも外務省の指示を受けてのものなのか、どちらなのでしょうか。
8 「慰安婦」問題以外に力を入れられている歴史認識及び領土問題はありますか?あるとしたらどのような問題でしょうか。
9 「慰安婦」問題などの歴史認識問題に関して、今後、どのようなご活動を総領事館としていかれるご予定でしょうか。
北米の「慰安婦」碑・像の一覧
アメリカ・カナダに建っている「慰安婦」の碑及び像の一覧です。(2018年7月15日現在)
- 2010年10月 ニュージャージー州バーゲン郡 パリセイズ・パーク市 碑
- 2012年6月 ニューヨーク州 ナッソー郡 碑
- 2012年12月 カリフォルニア州オレンジ郡 ガーデングローブ市 碑
- 2013年3月 ニュージャージー州バーゲン郡 ハッケンサック市 碑
- 2013年7月 カリフォルニア州ロサンゼルス郡 グレンデール市 少女像
- 2014年5月 バージニア州 フェアファックス郡 碑
- 2014年8月 ニュージャージー州ハドソン郡 ユニオンシティ市 碑
- 2014年8月 ミシガン州オークランド郡 サウスフィールド市 少女像 民有地
- 2015年11 月 カナダ オンタリオ州 トロント市 少女像 民有地
- 2017年6月 ジョージア州ディカーブ郡 ブルックヘイヴン市 少女像
- 2017年7月 ニュージャージー州バーゲン郡 クリフサイドパーク地区 碑 民有地
- 2017年9月 カリフォルニア州 サンフランシスコ市 像
- 2017年10月 ニューヨーク州 ニューヨーク市(マンハッタン地区)少女像 民有地
- 2018年5月 ニュージャージー州 バーゲン郡フォート・リー地区 碑
6月3日、日本女性学会で報告します
久々に6月2、3日に武蔵大学で開催される日本女性学会大会に参加し、午前の個人研究発表、午後のワークショップにて報告予定です。ご近隣の方はぜひ!
10:00-12:00 個人研究発表
(1号館4階 1403 教室)
家庭教育支援条例が制定されている自治体の一覧
今国会で自民党が提出予定だと報道されてきた「家庭教育支援法案」ですが、それとほぼ同じような内容の「家庭教育支援条例」が各地の自治体で着々と作られています。
どの自治体で通っているのかと、条例の内容が確認できるように、条例が制定された自治体をリストし、内容が掲載されているサイトにリンクを貼りました。
都道府県
- 熊本県 くまもと家庭教育支援条例 (2012年12月25日交付、2013年4月1日施行、2015年4月1日改正)
- 鹿児島県 鹿児島県家庭教育支援条例 (2013年10月11日交付、2014年4月1日施行)
- 静岡県 静岡県家庭教育支援条例 (2014年10月28日交付・施行)
- 岐阜県 岐阜県家庭教育支援条例 (2014年12月22日交付、2015年4月1日施行)
- 徳島県 徳島県家庭教育支援条例 (2016年3月18日交付・4月1日施行)
- 宮崎県 宮崎県家庭教育支援条例 (2016年3月23日交付、4月1日施行)
- 群馬県 ぐんまの家庭教育応援条例 (2016年3月29日交付、4月1日施行)
- 茨城県 茨城県家庭教育を支援するための条例 (2016年12月28日交付・施行)
- 福井県 福井県家庭教育支援条例 (2020年10月12日交付・施行)
市町村
- 石川県加賀市 加賀市家庭教育支援条例 (2015年6月22日交付・施行)
- 長野県千曲市 千曲市家庭教育支援条例 (2015年12月25日交付、2016年4月1日施行)
- 和歌山県和歌山市 和歌山市家庭教育支援条例 (2016年12月15日制定・施行)
- 鹿児島県南南九州市 南九州市家庭教育支援条例 (2016年12月22日制定・2017年4月1日施行)
- 愛知県豊橋市 豊橋市家庭教育支援条例(2017年3月29日公布)
- 埼玉県志木市 志木市子どもの健やかな成長に向け家庭教育を支援する条例 (2018年3月16日施行)
上野千鶴子さんの「憲法改正論議」に対する楽観主義
上野千鶴子さんの2月11日付「中日・東京新聞」のインタビュー記事「平等に貧しくなろう」に端を発する議論が巻き起こっている。
決定版とも言えるような、稲葉奈々子さん・高谷幸さん・樋口直人さん共著の上野さんへの回答文も含め、重要な論点はすでに出ているので、私はここでは、一連の議論の中での主要な問題とは外れるところで、上野さんが記事後半で触れている「憲法改正論議」についてほんの軽く感想を。
上野さんはインタビュー記事で、「「国のかたち」を問う憲法改正論議についても、私はあまり心配していない。国会前のデモを通じて立憲主義の理解が広がりました。日本の市民社会はそれだけの厚みを持ってきています。」と書く。
非常に楽観的な解釈なのだが、立憲主義の理解というのはそんなに一般に広がったものなのだろうか。国会前のデモも確かに特に一時期はもりあがりメディアにも報道され、意義はあったと思うが、結局集団的自衛権は通ってしまった。
そして、そうした運動を左派やリベラル側が行なっているのと同様に、日本会議をはじめとした改憲派の団体も、徹底して草の根的な運動を行なっている現実がある。武道館で集会を開いて1万人集めたり、各地で特に女性をターゲットに「おしゃべりカフェ」などの勉強会を開いたり、改憲DVDを製作して各地で上映運動も展開している。
上野さんは「回答」の中では「憲法改正について「心配していない」と言うのは、今の段階で仮に憲法改正国民投票が実施されたとしたら、高い蓋然性で「否決」されるだろうと言う観測からです。」とも言う。
国民投票について予測が甘すぎないだろうか。そもそも上野さんが例示する大阪も、都構想はギリギリで否決されたものだ。そして、その後のBrexitにアメリカ大統領選と、どれも予想は外れている。上野さんご本人もこれは認めているが、世論調査に信頼をそこまで置けるのか疑問だ。
日本会議は2014年から「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を立ち上げ、1000万人署名活動を行っている。この署名はどこかに提出するための署名ではない。国民投票に向けた名簿作りが目的だ。すでに国民投票を見据えて2年以上前から、着々と運動を進めているということだ。
さらに日本会議を支える様々な宗教団体の裾野も大きい。
また、上野さんは「もっとも政権は、解釈改憲でこれだけのことができるのだから、もはや改憲の必要性を感じていないかもしれませんが」とも書く。
だが、安倍在任中の改憲は安倍支持層の右派の悲願だ。2014年から運動本格化をさせ「美しい日本の憲法を作る国民の会」を作り署名運動を始めたのも、安倍在任中の明文改憲という明確な目標があるからだろう。
そして、彼らがこだわる改憲項目は9条だけではない。緊急事態条項や24条、さらには環境権などまで、その時に改憲しやすいところを狙ってくることだろう。フェミニストとしては興味関心のど真ん中である条文の24条は、現在、右派や自民党にとっても優先される改憲項目の一つだが、1954年、当時の自由党憲法調査会が論点として24条を挙げるなど、ずっとターゲットとなってきた。そして、2006年の教育基本法「改正」で「家庭教育」項目を入れたことをはじめとして、安倍氏はずっと「家族」をめぐる問題にこだわりを見せてきた政治家でもある。
2000年代初めの男女共同参画への「バックラッシュ」の時もそうだったが、フェミニストは自分たちが戦っている相手である右派勢力やその運動展開について、もっとしっかり把握すべきなのではないか。実態を見ないで想像に基づいて過度に恐怖を煽るのももちろん問題だが、同様に実態に即さない楽観主義も非常に危ういのではないか。
とくに上野さんは憲法についての著作もあり、講演などで憲法について話すこともあると思われる。影響力がある人だけに、改憲についての根拠不明な楽観主義の広がりにつながるとしたら怖いと思う。
自民党が次期国会提出予定の「家庭教育支援法案」に関連して
10月22日付の『朝日新聞』に、「家庭教育支援、国が方針 住民の協力は「責務」 自民法案」という記事が掲載された。これについていくつかツイートをしたものを簡単にまとめた形で、こちらにも掲載しておく。
自民党が来年の通常国会に提出予定という「家庭教育支援法案」(仮称)に関連することを、『日本会議と神社本庁』(『週刊金曜日』成澤宗男編著)掲載の「日本会議のターゲットの一つは憲法24条の改悪」という拙文に書いた。関連部分だけ抜粋して以下、引用する。
2006年12月に改正教育基本法が成立した。2016年5月28日に開催された全国教育問題協議会の大会を私は見に行ったのだが、そこで小林正元参議員議員は、教育基本法改正に取り組んだ際、1愛国心、2家庭教育、3宗教的情操の寛容 の3点に特に焦点を当てたと述べた。すなわち、日本会議などの保守運動にとっては、愛国心のみならず、「家庭教育」が非常に重要な柱の一つだったのだ。さらに小林は、家庭教育についてだけは納得できる結果になったとも語った。
実際のところ、改正後の教育基本法第10条に「家庭教育」が組み込まれたことの影響は大きい。これをベースとして、民間では高橋史朗らにより、「親学」運動が広げられていった。自治体では家庭教育関係の取り組みが行われるようになり、パンフレットが制作され、啓発事業も展開されるようになった。さらに2012年12月に制定された熊本県の家庭教育支援条例を皮切りに都道府県、市町村などでの家庭教育支援条例の制定が相次いでいる。条例のみならず、たとえば八木秀次や、日本政策研究センターは「家族基本法」の制定を目指すべきという主張を打ち出している。(179)
家庭教育支援条例の制定が「相次いでいる」と上記で書いたのは、着々とできているなあと思っていたからで、数としては決して爆発的に多いとかではなく、現在条例が制定されている県は、熊本県、鹿児島県、岐阜県、静岡県、徳島県、群馬県。市では石川県加賀市、長野県千曲市だ。私が見逃しているのもあるかもしれない。
だから、もう少し自治体での条例を広げていってから法案なのかと思っていたが、予想より早かった。そして、これで国が法案だして通ったりすると、自治体の条例もそれに従って一気にできてくると思う。そして、条例に従ってプランもできて、すでに行われている家庭教育推進が自治体レベルでもより熱心に取り組まれるようになるという流れか。そして、国も率先して様々な施策を行ってくるのだろう。
そして、各地の条例作りの上での「モデル条例」化しているのが、全国に先駆けて作られた熊本県の「くまもと家庭教育支援条例」だ。