「他者の視線」、市民運動、ネット

macskaさんのブログにて、市民運動が「他者の視線」に無頓着になっているという問題が指摘されている。その一例として、ファイトバックの会のブログが「他者」への呼びかけや応答が欠けていることが挙がっている。

ファイトバックの会のブログの立ち上げに関わったひとりとしては、いろいろ反省点もあるわけだが、そこでひとつ思い出した例がある。実際に関わった人間の立場からみた一例として、書き留めておく。(今後のフェミニズムの運動展開を考える上で役立つことを願いつつ、、)

2006年の4月、大阪地裁の法廷に入れない傍聴希望者がでて、混乱が起き、裁判長が法廷を中止し、退廷したことがあった。この一件は、地元MBSのニュースで報道され、MBSウェブサイトにも動画と文字版のニュースが掲載された。(新聞報道もあったのかもしれない?)おそらく、これがこの裁判に関する報道として、提訴のとき以来最大のものだっただろう。判決の日は、安倍退陣と重なったためもあり、報道はほとんどなかった。

たしかにMBSのニュース自体は、会のひとたちの声を伝える内容にもなっており、会にとってはいい報道だった、という解釈になるのだろう。なかなか報道が思うようにされなかったこともあり、報道があってよかった、という声があった。

だが、問題はその後。このニュースがMBSサイトに掲載されたこともあってか、すぐブログや2ちゃんねるに飛び火。男女板はもちろん、ニュース速報+に、「痛いニュース」にまでも「『男女平等』訴訟でフェミニスト集団が裁判を妨害→裁判長キレて退廷」と、載ってしまった。(もしかしたらほかにも載っていたかもしれない)それに伴い、普段決して多いとはいえない、会のサイトやブログへのアクセスも激増。ホームページに掲載されていた、傍聴を呼びかけるチラシへのリンクが2ちゃんに貼られてしまい、とくにそのページに集中して、ものすごいアクセスになってしまった。

「うわ、これは大変なことになってしまった」と、アクセス状態をみた私は思ったのだが、、、問題は、「大変だ」と思っていた人たちが、私以外にほとんどいなかったことだ。(なんせ、会には普段からブログ、ましてや2ちゃんを見ている人たちが少ない(ほとんどいない、といってもいい)。なので、「(比較的好意的な)報道があってよかった」で終わってしまい、それ以降にネットで大変なことになっているとは想像もつかなかったのではないかと思う。私が一生懸命、アクセスがこんなに増えてしまって(しかもほとんどは2ちゃんから)大変だ、、と説明しても、いまいちピンときてもらえず、反応は鈍かった。

会員たちは法廷の中止という展開に怒っていたため、会のブログには、会員の怒りの声がどんどん掲載されていったのだった。それと同時に、ネットでは「祭り」状態になっていたのだが、その動きもよくわかってない状態で、状況に無頓着なまま、どんどん会のブログに「会員の怒りの声」が載せられていってしまったのだ。(ブログの集団管理体制の難しさが出た面もある。)いわゆる「炎上」を誘いやすい状況を、無意識のままつくっていってしまったともいえる。
ラッキーなことに、この「炎上」状態はまもなく落ち着いて、長続きはしなかったのだが、、、、この一件や裁判に関するマスコミ報道がその後なかったのだが、もし続いていたら、もっとネット上では大変なことになっていたかもしれない。

たぶん、今までだったら、運動体にとって「マスコミに報道されること」が大きな広報の手段であり、ある程度好意的な報道が掲載されれば、よかった、成功だったということになったのだろう。だが、今はちょっと違う。マスコミ報道の後、ネットでどうなっているかで、社会への影響が大きく変わったりもする。
報道があったからよかったね、だけではなく、それへのネットへの対応まで今の運動体は視野にいれてストラテジーを組まなくてはいけなくなっていると思う。だが、ここで挙げたケースでは、ネットでのリアクションを気にせずに(というか、知らずに)、そのまま突っ走ってしまった。おそらくコメント欄があったら、相当荒れたのではないかと思う。だが、コメント欄はなかったため、危機感を持つことにも至らず終わってしまった。

もちろん、ネットで批判されたからといって、運動方針を変えろというわけではないのだが、ネットで何が起きているか知らなさすぎるのも、そしてまわりの状況を見ないままに一方的に発信し続けてしまうのも、自分たちの主張を効果的に伝えるためにはマズいと思う。もちろん皆がネットをみるわけではないので、ネットだけに頼るのは危険で、マスコミ報道も重要なわけだが、、報道された「後」にネットでどう発展していくのかも視野にいれることで、他者の視線をもうちょっと意識していくことのきっかけくらいにはなるのではないだろうか。